|はじめに|

 今、日本列島で進みつつある怒濤のような自然環境の変化を、本書のタイトルでは「消える」と表現した。都市で育ち、都市で生活する人口の比率が高い現代では、そのことに気づく人は少ない。しかし、こども時代を田舎で過ごした年配の方たちは、かつて、身の回りで普通にみられたゲンゴロウ、タガメ、メダカ、キキョウ、リンドウなどが今では絶滅危惧種になっていると聞けば、その変化が並大抵のものではないということを実感することができるのではないだろうか。

 サービス産業化が急速に進む経済状況において、地域の自然環境が地域社会における経済的な持続性に果たす役割は、今後ますます高まると思われる。その問題は第3章で説明するが、日本ではそのことへの認識がいまだ十分とはいえない。人口減少や高齢化問題とそれぞれの地域のたたかいは、健全な生態系と美しい自然、自然と共生する文化を盾に、都市に住む人たちに“援軍”を頼むより他に手はない。そのためには、どのような変化が起こったのか起こりつつあるのか、広範な人々が共通の認識をもつことが必要である。
 自然環境の急速な変化は日本だけではなく世界中に共通する問題だ。そのため、1992年の地球サミットにおいて、温暖化対策の「気候変動枠組み条約」とともに「生物多様性条約」が採択され、今日では190ヶ国が加盟している。

 日本も採択直後に生物多様性条約に加盟し、5年ごとの生物多様性国家戦略の改定もすでに3回を経た。2008年5月には「生物多様性基本法」が成立し、6月から施行されている。ここ十数年の間に、自然環境を保全し、必要に応じて再生することに対する意識が少しずつ高まってきた。それらが社会的にも意義のある活動として法的な位置づけを得たのだ。2010年には、生物多様性条約の締約国会議の日本開催が予定されている。これは、日本がこの分野で世界に向かって「範」を示すよい機会である。生物多様性の保全と持続可能な利用によって、地域の環境と経済の持続可能性を高める確かなプランと実現のみちすじを示すことが必要だろう。

 日本列島の自然に何が起こりつつあるのかをしっかり見つめ、それが私たち自身、そして子や孫やひ孫の将来に投げかけている問題を明瞭に認識することが今求められている。そのための理解を共有するための一助とすべく本書の出版を考えた。

 
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