|はじめに|


 私たちが普段食べている水産物のその多くは、自然の海に暮らしている、天然の魚たちなんですよ。そう、良く天然や養殖とか言われますが、普段、食べ物として品揃えされる自然の生き物って、実は魚ぐらいしかないのです。
 日本の海で確認された魚類は四〇〇〇種程いるそうで、私が住み働いている神奈川の海の相模湾でも、黒潮などの影響を受けるため、一六〇〇種もの魚が見られます。そのうち、約三〇〇種は実際に食品として利用されて、皆さんの食卓にものぼっているのです。でも、皆さんが食べている魚の名前というとどれだけあげることができますか? 二〇種類? 三〇種類? 意外にも少ないのではないでしょうか。
 この本には、魚や貝などの紹介と、食に係わる豆知識を盛り込み、締めの言葉には『是非、お試しあれ』と、四季折々で私たちの地元に水揚げされる魚たちを、「見て」、「料理して」、そして「味わって」いただきたい。そんな思いを入れ、楽しい食卓での話題として使っていただければ幸いです。
 「君たちには夢があるか」、子供の頃、誰かから聞いた言葉ですが、未だに心に残っています。大学を選ぶ時には衣食住に係わる仕事を職業にしたいと思っていたこと、それ以上に魚介を味わうのは好きであったことから、ごく自然に東京水産大学を目指し、現在でも食に係わる水産の仕事をしています。そう、私の夢は、誰もが美味しく魚などを食べられる知識の一般化、そして私たちの生活を支える技術や科学を追究し、そして世界中で食の貧困が無くなればと。
 本書は、平成一六年から神奈川新聞にて毎週木曜日にコラム「相模湾おもしろ話おもしろ味」で連載した一五一話を基に、二点の写真―魚の姿と私が作るならこんな料理として―をそろえ、加筆したものです。

二〇〇七年一一月 著 者

 
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