|はじめに|

 ラジウムを発見したマリー・キュリー、電磁誘導現象を発見したファラデー、白熱電球を発明したエジソン、こういった先駆者の胸像が日本国内にある。ニュートンの生家にあったリンゴの木の子孫も国内でいくつも根付いている。相対論で知られるアインシュタインによる自筆追悼文を刻んだ墓碑が、これも国内にある。その他、ベルツ、エアトンのような幕末・明治期に来日して日本の近代化に貢献した科学者や技術者の胸像や記念碑もたくさんある。
そんな西洋科学技術者を偲ぶ日本ゆかりの地へと案内したいと思う。
科学や技術を学ぶときに、その結果としての知識だけでなく、それらができあがっていく過程を学ぶことも大切だ。そのときにそれらを発見したり、それらを発明した人物についても知れば、いっそうその知識は深まり、学びを豊かにしてくれる。
 そもそも科学や技術も、人間が作り上げてきた文化の一つであって、その点で芸術と同じであるというのに、日本ではあまりに一面的である。人物ととともに学ぶということは、どこかに追いやられているように見える。
 その一端は、たとえば、学校の音楽教室にベートーベン、モーツァルトをはじめとする楽聖の肖像画や胸像が飾られていることは普通なのに、学校の理科教室にはニュートン、アインシュタンといった科学者の肖像画さえ掲げられていることは少ないことにも現れている。誰もが行き交う一般の公園に、ベートーベンやモーツァルトの大きな銅像が堂々と建てられているというのに(たとえば徳島県鳴門市のドイツ村広場、兵庫県神戸市の東公園など)、ニュートンやアインシュタンの銅像が建てられたという話は聞かない。
 西洋科学技術者の日本におけるゆかりの地を散策するようになった理由の一つに、このよう思いが背景にあった。大きな銅像はなくても、目立たぬところに胸像くらいならある科学技術者は数多いので、記念碑や記念樹、記念館、墓などと合わせて、紹介したいと思うようになった。
 題して「知っていますか? 西洋科学者ゆかりの地 IN JAPAN」。その科学者や技術者の人間像に触れるだけでなく、わたしの町や村を新たに発見するよすがにしていただけると嬉しい。便宜上、PARTT「新しい世界を開いた西洋科学者」とPARTU「近代日本の建設に貢献した西洋科学技術者」の二分冊とした。本書はその第一分冊である。
2013年1月
                 著者

 
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