|はじめに|

 著者は,これまで高校物理教育にたずさわる中で,多くの疑問に出くわした.その多くは,概念や原理・法則の成り立ちについての疑問であった.教科書で一言,1行でさらりと書かれている法則でも,その成り立ちはどうであるのか,気になることが多かった.もともと歴史や文学,哲学などにも強い関心のあった著者にとっては,物理学の応用技術よりも,物理学の成り立ちに関心をもつようになるのは自然ないきさつであった.

 そして,ひとつひとつ調べたことを折々にまとめ,あちらこちらに発表しているうちに,いつのまにやら,力学から原子物理までひととおりの事例をカバーするようになった.本書は,このうち十二の事例を選んで一書に編んだものである.著者の関心の背景を知ってもらうのによいと思われたので,「あとがき」まで,すでに発表したものとした.また,科学の成り立ちを調べるには,古典といわれる著作や論文が必要になってくるので,参考までに「付章」として,古典の所在を記した一文も付け加えた.これも既発表のものである.

 収録にあたっては,字句の訂正や統一をし,その多くは題目も改めた.内容については初出時とほとんどかわっていないが,かなり大幅に書き加えた章や,複数のものを一つの章にしたものなどある.そうはいっても,第 1 章と第 11 章など,初出時には最新の科学研究まで取り入れたリポートであったが,本書に収録するにあたってその後の研究を取り入れることができなかった.

 著者の最大の関心は,科学史そのものよりも,科学史の立場から科学を見ることにあるが,こうして一書に編んでみると,結果として,物理学史の諸相をいろいろな切り口で見た形になっている.そのときの「文章の断片」という意味で,書名を『物理学史断章』としてみた.またそれぞれが何らかの意味で現代物理学につながっているので,「現代物理学への十二の小径」という副題をつけた.各章読み切りなので,どの章からでもお読みいただきたいと思う.
(以下省略)

2001 年 10 月

著 者

 
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