|はじめに|

 本書はさきに出版した拙著『レントゲンと X 線の発見』の続編としてまとめたものである.

 19 世紀末から今世紀初頭にかけては X 線の発見を始め,多くの科学文明が花開いた時代であった.ライト兄弟による飛行機の発明,フォードの自動車大量生産による普及,交流電力の長距離送電による電気事業の発展,そして X 線の発見と同じ頃,マルコニーによる無線電信の実用化等である.これも当時の人々にとっては信じられないことで,電線もないのに何故電気が数千 km も遠くまで届くのか不思議なことであった.

 飛行機が発明(1903 年)されてからおよそ 100 年である.現在では,東京からヨーロッパの主要都市まで 12 時間で行けるようになった.マルコニーの無線電信は音声を変調することにより無線電話となり,これがラジオ放送に発達することになる.さらにこれに映像がついてテレビジョンとなった.光学カメラも今やデジタルカメラに変わり,現像処理の必要はなくなりつつある.

 医用 X 線装置は ms の単位で撮影が可能となり,デジタル画像処理により目的に合った画像構成が可能となった.コンピュータの進歩は膨大な計算処理を可能にし,X線 CT が開発される.このような現実を 20 世紀初頭の人々はとても予想できなかったと思われる.しかしこれらは簡単にでき上がった訳ではなく,多くの分野の科学技術の積み重ねによって完成したものである.

 このようなことから X 線装置について発見の創成期から 1 世紀後の今日までの進歩,発達の経緯を知ることは 21 世紀への示唆を与えてくれるものと信じている.

 本書では次のように記述した.

第 1 章 1895 年から 1910 年頃まで:まだ X 線の物理学,生物学的性質も解明されていない創成期における試行錯誤について述べる. 
第 2 章 1910〜1930 年頃まで:X 線の物理学,生物学的性質がほぼ解明され,X 線の医学への応用が本格的に普及した時代で,X 線装置の基本形ができ上がった.  
第 3 章 1930〜1950 年頃まで:この時代に防電撃,防 X 線装置が実用化し,安全性を配慮した装置が完成する.  
第 4 章 1950〜1980 年頃まで:X 線装置発達史の後半である.第 2 次大戦後の混乱期を経て技術革新時代に入る.コンデンサ式装置の普及,計測技術の進歩,装置の大容量化,三相装置の普及,CT 装置の開発,デジタル技術の導入等について述べる.  
第 5 章 1980〜2000 年頃まで:三相大容量装置までインバータ化される.これにより電源から X 線管までの電子制御が可能となった.X 線創成期から約 1 世紀を経てここに主回路の完全電子制御装置が誕生した.

 本来,医用 X 線装置発達史としては X 線発生装置のみでなく,映像装置を含めた関連機器についても記述すべきであるが,現在これらは多様化しているので,いずれ機会を見てそれぞれの専門家に分担執筆を依頼し,より充実した医用 X 線装置発達史にしたいと念じている次第である.

2000 年 12 月
著 者

 
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