|はじめに|

  この本はこれから流体力学の勉強を始めようとする人を対象に書かれたものである。したがって,流体力学の基礎的な事柄だけを平易に記述するように心掛けた。

 流体力学は流体の流動現象を扱う学問であって,その応用範囲も広くなってきている。理工学分野において,流体力学は基礎学問の一つである。これは流体力学そのものでなく,むしろ流体力学的知識が何らかの形で導入されねば解決できない問題が多くなっているからだと考える。だからといって,流体力学を必ず知らねばならないとは思わないが,基礎的な概念を知ることによって応用面への展開が可能となるのではないだろうか。

 流体力学の専門の学者によって執筆された教科書も多数出版されているが,簡潔すぎてむつかしく思うことがある。流体力学を学ぶには,比較的高度の数学的知識が要求されるので,読者の側からその要求に対応できなければむつかしく思うのは当然である。だから,筆者の講義では教科書とノートの併用の形をとることになるが,結局はノート講義になってしまう。ところが,それでは講義の進行が思うにまかせない。流体力学の考え方やその理論の展開ににおいて余り大きな飛躍がなく,基礎的事項だけを分かり易く解説しなければならないと思ったことがこの本の執筆の動機である。この本の書名を「基礎流体力学」としたのはこの執筆動機に基づいているのである。

 この本の執筆に当っては,流体力学の基礎的事項はできる限り網羅するように努めた。この本は8つの章から構成されている。第1章から第5章までは流体の粘性を無視した完全流体の力学の基礎理論が述べられている。ポテンシャル流れ,渦運動,そして翼の揚力発生機構の原理などが含まれている。その中で第5章だけは簡単な気体の力学の解説に当てた。第6章から第8章までは粘性流体(実在流体)の力学を取り扱っている。ここでは,完全流体と粘性流体の力学的取り扱い方の差異,層流境界層理論,剥離現象と抗力理論,乱流の取り扱い方,乱流境界層理論が述べられている。

 以上のように,この本は流体力学の基礎的事項だけが取り扱われ,その解説も分かり易くするように配慮した。内容的に不十分という危惧もあるが,流体の流れ現象の基礎をしっかり身につけて頂きたい。また,各章の終わりに演習問題をつけておいた。その章が理解できれば,比較的容易に解ける問題ばかりである。だから,必ずそれらの演習問題と取り組んで欲しい。

 脱稿してみると,なんとなく不満足な面もあるように思うが,浅学かつ非力な筆者であるので,読者諸氏から親切なご指摘や御教示が頂ければ大変うれしく思う。  この本の執筆に際して,多くの書物を参考にさせて頂いた。主に参考にした書物は巻末に記載されている。

 
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