|はじめに|

 こんにち、社会の大きな変化に伴い、コミュニティのあり方にもさまざまな変化が生じてきている。そして、一方では、コミュニティの衰退や崩壊がいわれ、他方では、コミュニティの復活や再生がクローズアップされている。また、日常生活においては何の役にも立たないから不要であるといわれる半面、地域の防災や防犯、育児や介護に関して、いまこそコミュニティが必要であるという主張が多くなされている。さらには、情報コミュニティの出現によって、若者をはじめ多くの人々が新しいコミュニティづくりにきわめて熱心となっている。
 本書は、このような現代のコミュニティの様相について、コミュニティの社会構造、社会関係、都市的相互作用、住民組織、コミュニティ・イメージ、コミュニティ意識、コミュニティ文化、コミュニティ・メディア、コミュニティ・コミュニケーション、情報コミュニティ、そして、コミュニティの変容やコミュニティの未来などの側面から、その現実と変化の状況を具体的に解明し、そこから、コミュニティはどうあるべきかを問題としている。
 第一章は、コミュニティの概念について、これまでの研究者の見解を検討しながら、現代コミュニティとは何かについて論じている。第二章は、コミュニティの変容について、その衰退と再生の様相を具体的に明らかにし、現在の状況と今後のあり方が検討されている。第三章は、二一世紀のコミュニティのイメージと現実とのギャップを指摘し、これからのコミュニティのゆくえが考察されている。
 第四章は、大都市コミュニティの社会構造について、全体社会の変化と都市社会のあり方を「社会地図」を用いて具体的に明らかにしている。第五章では、職業階層の空間分布について、東京とシカゴの都市間の比較研究から解明されている。第六章は、都市における人々の社会関係について、これまでの仮説を検討し、東京での社会関係の現在・過去・未来が問題とされている。
 第七章は、地方都市におけるコミュニティの社会構造について、まちづくりを担う人々によるコミュニティの再生が具体的に解明されている。第八章は、都市に住む人々の相互作用である「都市的相互作用」が取り上げられ、その典型である「ストレンジャー・インターラクション」の特質について考察がなされている。第九章は、コミュニティの住民組織に関して、日本の町内会とイタリアのコントラーダのそれぞれの活動が具体的に明らかにされている。
 第十章は、コミュニティのあり方を左右するコミュニティ・イメージが問題とされ、「住みよいコミュニティ」について論じられている。第十一章は、コミュニティへの関心・関与を意味するコミュニティ意識の具体的様相とその分析枠組みが検討されている。第十二章は、都市の祭りに代表される非日常的なコミュニティ文化とともに、芸術文化、生活文化、余暇文化などの日常的コミュニティ文化について言及されている。
 第十三章は、身近な情報や地域の情報を提供するコミュニティ・メディアを問題とし、とりわけ、CATVとコミュニティFM放送の特質とその果たす役割について論じられている。第十四章は、コミュニティ・コミュニケーションについて、日常的コミュニケーション、「うわさ」のコミュニケーション、災害時のコミュニケーションが具体的に考察されている。第十五章は、「地図にないコミュニティ」といわれる情報コミュニティの現状と、それが地域コミュニティとどのように関連するのかについて考察がなされている。
 本書は、もともとは放送大学のテレビ科目「現代コミュニティ論」(二〇〇六 ― 〇九年度)のテキスト『現代コミュニティ論』(放送大学教育振興会、二〇〇六)として作成されたものである。受講生の中に、コミュニティ活動に従事している人、また、これから携わろうとしている人、あるいは、情報コミュニティに強い関心をもつ人が多くおられ、これらの方々からさまざまな感想や意見が寄せられた。そこで、その声に応えるべく、今回、恒星社厚生閣のご厚意により、タイトルも新たに『現代コミュニティとは何か―「現代コミュニティの社会学」入門』とし、各章とも書き加え、内容もかなり改訂して、出版させていただくことになった。
 本書は、現代コミュニティのあり方に関して、社会学の観点から具体的現実の解明を目指し、新たな事実を浮き彫りにし、これからの方向について積極的な問題提起を行うとともに、新しいコミュニティ論を展開することを意図している。本書によって、多くの方々がコミュニティへの関心を深め、コミュニティの将来と自己の将来とを結びつけて考えることができるようになればと願っている。

二〇一四年四月
船津  衛

 
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