|はじめに|

 現代社会、とりわけ二一世紀社会は変化・変容のきわめて著しいものとなっている。グローバル化、情報化、高齢化、少子化などが急速に進み、また、戦争、テロ、自然災害、環境破壊など、さまざまな問題が引き起こされている。そして、社会全体が一つの方向に向かうのか、それとも多様な道を歩むのか、そのゆくえはきわめて不透明である。
 本書は、このような二一世紀社会のあり方について、自己、都市、集団・組織、集合行動、共同性・公共性、ジェンダー、身体感覚、宗教、情報、災害、高齢者、「病い」、〈死〉、「心の豊かさ」という社会現象、および、ポスト三・一一の社会状況から、その現実と変化の様相を具体的に解明し、そこにおける問題点を浮き彫りにし、そこから、あるべき姿を探っていくことを意図している。
 第一章は、二一世紀社会を「リスク社会」としてとらえ、それを人間の内省によって乗り越え、新しい合理性と親密性を生み出していくことが述べられている。第二章は、人々の自己のあり方として、問題解決的自己、状況的自己、脱中心的自己、物語的自己など、さまざまな自己が存在することが明らかにされている。そして、第三章では、都市の空間構造とその変化について、分析ツールとして「社会地図」を用いて解明し、東京圏を中心に都市社会の構造と変動について具体的に解明されている。
 第四章では、現代社会における集団・組織の重要性を指摘するとともに、官僚制組織、ヴォランタリー・アソシエーション、社会関係資本、「純粋な関係性」について検討が行われている。また、第五章は、群衆行動や社会運動などの集合行動について、社会不安および不満という観点から社会構造や個人の信念、人々の相互作用との関連において考察されている。第六章は、社会の変動に伴う社会の編成について、個人化、共同性、公共性という視座から接近し、二一世紀社会における「つながり」のあり方が問題とされている。  第七章は、ジェンダーという言葉の発生と歴史および現代社会におけるジェンダーについて説明し、身近な事例を通してジェンダーの問題が検討されている。第八章では、視覚と嗅覚による身体管理の変遷をフォローし、現代社会における〈まなざし〉による支配と癒しの空間とのかかわりを問うている。そして、第九章は、現代宗教がどのような様相を呈しているのか、日本人の宗教性、世俗化による宗教のゆくえを論じ、さらに、伝統的宗教とともに新しい宗教の動きについて言及している。
 第十章は、コミュニケーションの変容、受信・発信のリテラシー、ITコミュニケーションの現状を取り扱い、また、情報コミュニケーションの倫理について論じている。第十一章は、災害に関する社会情報論的アプローチ、組織論的アプローチ、地域社会論的アプローチを検討し、社会の多様性と統合原理に基づく災害社会学の必要性を説いている。第十二章は、高齢者においてさまざまなソーシャル・ネットワークが存在しており、それらがソーシャル・サポート機能とコンボイ構造を有していることが具体的に明らかにされている。
 第十三章は、「病い」について、治療によって元に戻る「回復の物語」があてはまらない、治療の必要性(あるいは可能性)のないケースに対する社会学的視座が提示されている。第十四章では、現代における〈死〉の隠蔽が〈生〉のリアリティを喪失させ、人々が〈死〉の意味を考え、悼む機会を奪い去ることが述べられている。第十五章では、「心の豊かさ」の本来的意味を考えるために、個人の生活と社会、個人の人生と世界社会の動向のつながりを捉える「社会学的想像力」の必要性が説かれている。そして、第十六章では、中央と地方の格差や断絶の存在が指摘され、東日本大震災の被災地の復興の現実と自立に向けての住民の動きが具体的に明らかにされている。
 なお、各章のそれぞれの文脈に応じて、reflexion は内省、再帰、self は自我、自己、また、interaction は相互作用、相互行為などに訳し分けられている。
 本書は、二一世紀社会のあり方について、社会学の観点から具体的現実の解明を目指し、問題点を指摘し、新たな事実を浮き彫りにするとともに、二一世紀社会の新しい方向について積極的な問題提起を行い、問題解決の方策を明示している。読者は本書によって、二一世紀社会が現在いかなる状況であり、今後どのようになっていくのかについて新たな知見を得るとともに、社会学がどのような学問なのかについて知ることができると思われる。

二〇一四年二月
船津  衛

 
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