|はじめに|

改訂新版へのまえがき
 この版は以前の版に大きく手を入れたものである。元からの章で手の入っていない章はほんのわずかで、多くの章はまったく置き換えられた。新しい章もいくつか加わった。こうした変化は二つの理由から必然的であった。第一に、初版以来二十年にわたって科学哲学の入門コースにおける教育を行って来たが、その経験からそうした教育をよりよく行うにはどうすべきかを学んだ。第二に、入門教科書において解説すべき重要な発展が、この間に科学哲学においてあった。
 科学哲学において近年影響力をもつ学派の一つは、確率計算におけるベイズの定理の上に科学の説明を打ち立てようとしている。第二の潮流である「新しい実験主義」は、これまで以上に、科学における実験の本性と役割に注意を払うことに取り組んでいる。第十二章と第十三章でそれぞれ、これらの学派についての記述と評価を行っている。近年の研究、とりわけナンシー・カートライトの研究は、科学に特徴的な法則の本性についての重大な疑問をもたらした。そこで、この版ではこの問題についての一章を含めることになったし、おなじく、科学に対する解釈を巡る実在論と反実在論の激しい論争の水準に肩を並べるために一章を含めた。
 この本の題名となっている問いに対する究極的な答えに到達したと言うつもりはないけれども、現代の論争の水準に達しているようにつとめ、またあまり専門的にならない仕方でそこへと読者を誘うことにつとめた。各章の末尾にはこうした問題をより深く追求したい人々にとって有用で新たな現代的な出発点になるように「さらに学ぶための本」を示してある。
 この本をどのように改善するかを教えてくれた学生や同僚すべての名前を挙げたりはしない。一九九七年六月にシドニーで開催した国際シンポジウム「科学と呼ばれているのは何か? 二十年を経て」において多くのことを学んだ。このシンポジウムに支援をいただいたクイーンズランド大学、オープンユニバーシティー出版、ハケット出版、そして、このシンポジウムに参加し報告集に寄稿してくれた同僚や友人たちに感謝する。この催しが私の意欲を大きく高め、本文を書き直すことになる大きな仕事に取り組む誘因となった。書き直しの多くは、マサチューセッツ工科大学ディブナー科学技術史研究所の研究員として過ごした時期に行われたことに感謝する。この集中的な仕事の助けになり、支えとなる環境として、これ以上の環境を望むことはできない。原稿を注意深く読んで有益なコメントを加えてくれたハソック・チャンに感謝する。
 表紙の猫が何でにやりと笑っているのかわからなくなってしまったが、相変わらず賛意を示して、元気づけてくれているように思われる。

  一九九八年 マサチューセッツ州ケンブリッジにて
        アラン・チャルマーズ

(以下省略)

 
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