|あとがき|
はしがき

 本書の企画から刊行までの経緯について記したい.本書の企画は,「また一緒に仕事をしませんか」という高橋先生のお話に始まった.高橋先生は,私,内藤が,間もなく定年退職となることを記憶されていて,退職に伴う開放感から研究と距離をおいてしまうことを危惧されていたのではないかと想う.私はかねがね事情が許せば68歳の定年退職が理想的であると考えていたこともあり,定年退職以降についても多少の計画をもっていたのであるが,そこに高橋先生のお話であった.私は,早速,高橋先生からのお話を詰めるため先生の宅を訪問した.
 久しぶりの訪問であったこともあり,まずは近況の報告となったが,話は次第に近年の社会情勢に及び,とりわけ,多くの時間が地域問題に充てられることになった.内容は多岐に及んだが,いま地域には新たな動きがあり,その動きに合わせて新しい共同の形成が求められているにもかかわらず,新しい共同の形成が必ずしも容易でないこと,しかしながら,地域には新しい共同の芽も出てきており,もっぱら悲観的に考える必要はないことで意見の一致をみたのであった.そして,さらに,新しい共同が促進されない一因がリーダーの不在にあること,その結果,もめごとや小さな紛争に見舞われている地域が少なくないことを確認することになった.われわれのみるところ,そうした事態を不都合と感じている人々が少なくない.
 もちろん,そうした事態がすべて,リーダー不在というシングル・ファクターに還元できないことは明らかである.事態の解明には,何よりも,いま地域に生起しつつある出来事を中心に,地域の現状をできるだけ正確に把握することが必要である.その試みは,決して壮大と言えるものではないけれども,地域で解決を要請されている問題がわれわれの日常生活を不都合・不安定なものにしているのであれば,真剣な取り組みがあってよいテーマではないか.都市社会学を専攻してきた私たちにも,それを取り上げなければならない責任の一端があるのではないか.このテーマについては,従来からその必要が唱えられていたにもかかわらず,必ずしも研究の蓄積がないのである.話はそのようなところに落ち着いた.
 それならばわれわれの手で取り上げてみよう.出版可能な企画にもっていけるかどうかを早急に検討することにしましょうということになった.出版社は,一応の構想ができあがった段階で検討することにしたのだが,私たちは,暗黙裡に,これまでお世話になり学術出版に理解の深い恒星社厚生閣を考えていた.そして,今回も,恒星社厚生閣にはご理解とご協力をいただくことができた.それが,本書の企画にかかわる事情であった.
 本書の狙いは,第1章の高橋論文が触れている.第2章以下は,第1章を念頭においた展開である.なお,このたびの企画では,敢えて,細部にわたる調整を行なわないことにした.充分調整の時間をとることが難しいということもひとつの理由であったがそれだけではない.第1章で記述された内容を踏まえてできるだけ自由に執筆していただきたいという意図があった.われわれは,そうした考えから本書を構成したが,その成果については読者の判断に委ねたい.

編者 高橋勇悦
   内藤辰美
  
 
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