|まえがき|
  前節まで,90年代を通じて,メディア環境の変容とともに若者のコミュニケーションや親密性のありように変化がみられるのではないか,ということを述べてきた.本書の各章では,このような点について,東京と神戸で行なった調査をもとにして考察を行なっている.友人関係,恋愛関係,家族関係という親密性の各領域を網羅的に取り上げ,さらにメディア利用との関連を検討する,という構成になっている.
 第1部「若者たちの現在」では,若者にとって最も重要な他者である友人との関係を取り上げ,若者のコミュニケーションや親密性の特徴について,見取り図を与えるような議論を試みている.第2部「若者たちの生き残り戦略」は,第1部で示されたコミュニケーションや親密性のありようを,整形とひきこもりという観点から詳細に描き出している.第3部「親密な他者としての恋人・家族」は,若者にとって友人とともに重要な他者である恋人や家族との関係から,親密性の異なる側面を浮かび上がらせている.第4部「メディアと親密性の変容」では,新たなメディアの利用が親密性のありようにいかなる変化をもたらしうるのかについて,挑戦的な議論を試みている.また,各部の間には,本書をリアリティをもって理解していただくためのコラムを用意した.
 本書で主に用いられるデータは,文部科学省科学研究費・基盤研究(A)(1)「都市的ライフスタイルの浸透と青年文化の変容に関する社会学的分析」【平成13〜15年度,研究代表者:高橋勇悦】から得られたものである.調査対象は,2002年9月時点に二段抽出法によってサンプリングされた東京都杉並区と兵庫県灘区・東灘区に住む16歳から29歳までの男女である.調査手法は,訪問留置法の定量調査となっている.東京地区,関西地区それぞれに1000票(計2000票)の計画サンプルに対して,有効回収票はそれぞれ550票(計1100票)であり,有効回収率は55.0%であった*3.
 この調査設計は,青少年研究会(実査時研究代表者:高橋勇悦)が行なったものであり,1992年から93年にかけて行なわれた「都市と世代文化に関する実証的研究」との比較調査としても位置づけられる.前回調査は,同地区の同じ年齢層を対象に実施されたものである.ただし,前回調査では郵送法が採用されており,回収票は1114票と同程度であるが,回収率は22.1%とかなり低い.二時点間を比較する場合には,この点に留意する必要がある.なお,前回調査の詳細については,高橋勇悦監修,川崎賢一・小川博司・芳賀学編1995『都市青年の意識と行動―若者たちの東京・神戸90ユs・分析編』(恒星社厚生閣),および富田英典・藤村正之編1999『みんなぼっちの世界―若者たちの東京・神戸90ユs・展開編』(同)を参照していただきたい.
 本書は,執筆者が調査データから触発された視点に基づいて執筆された後者の続篇としての意味あいが強い.本書も今回の調査結果の全容を示したものではなく,各執筆者が行なってきた詳細な定性調査や他の定量調査の結果なども踏まえ,若者のコミュニケーションや親密性ついて自由に論を展開したものである.
  2006年1月          岩田考・羽渕一代
 
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