|はじめに|

 本書は,1980 年代中頃から 2000 年頃までの期間に書いた日本企業の経営組織と,そこで働く人間の職業意識をテーマとする論文を,一冊の著書にまとめたものである.この時代の社会変動を推し進めた力学としては,技術革新・国際化・人口構成の高齢化の 3 つの側面が注目される.技術革新の側面では情報技術の進歩とそれに関連する理論的知識の創出が,産業構造転換を推進していった.国際化の側面では対米貿易摩擦の深刻化と非関税貿易障壁の撤廃の受け入れ,規制緩和とワンセット型の企業集団の解体,中国の現代化などが進展した.人口構成の高齢化の側面では,平均余命は世界最高の 80 歳代が現実のものとなり,他方では,特殊合計出産率の低下にみるように,少子高齢化が深化しつつある.
 20 世紀における最後の 4 半世紀は,2 度にわたる石油危機によって日本の高度経済成長が終焉する時代から始まった.地球環境の有限性の認識と公害対策および,石油価格とドル通貨の大幅な変動がそれに続いた.1980 年代頃は,安定成長期と呼ばれたが,中頃から円高が深刻化して不況に到り,それに対する内需拡大策が試みられた時代であった.また,1990 年代初頭には対米貿易摩擦が深刻化し,この中で日本は非関税貿易障壁の撤廃という名目での構造改革を受け入れることになった.その結果として規制緩和は進んだものの,アメリカ型グローバルスタンダードの受容は,バブル景気を喚起し,その帰結である複合不況,さらには 1997 年のアジア経済危機による景気の腰折れという「失われた10 年」をもたらす遠因にもなった.
 経営組織と職業意識に関しては,安定雇用と労使協調および企業集団を特徴とする日本的経営が,内部的には能力主義あるいは成果主義を強めつつ同質化管理から異質化管理へと向かい,企業間では市場原理の導入が強化され,銀行を中核とするワンセット主義が弛緩していった時代であった.雇用管理の流動化と企業間関係における市場原理の導入は,漸次進行している.しかし,その変化は安定雇用の下での生え抜き経営者によって担われる場合が多く,累積的な変革として行われる傾向が強い.
 以下では,この職業的世界における変化を,9 つの論文を通して検討することにしたい.本書に収録した論文の多くは既発表の論攷によっている.初出は以下の通りである.本書で掲載するにあたり,数値の修正や加筆を行い,また重複を避けるために削除が行われている.
以下省略

2003 年 2 月 16 日 初春の紅梅と白梅の季節に,商学部長室にて
佐々木 武夫

 
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