|はじめに|

 社会システムとは、社会における部分の全体に対する、全体の部分に対する、部分の部分に対する因果的意味的な相互依存の状態を構成する全体を言う。社会学のシステム論は科学的説明のための一種の理論的モデルでもある。社会を全体的にシステムとして捉え、諸個人間の相互行為のあり方を分析して、人間の単位行為と行為システムをもとにして現代社会の現実とそのメカニズムを解明したのはタルコット・パーソンズであった。
 パーソンズは、『社会システム』(一九五一年)『行為の一般理論に向けて』(同年)『行為理論と人間的条件』(一九七八年)などに代表された業績のなかで、社会的行為・価値・規範・制度といった構造や機能の諸特性、社会的行為に関するパターン変数図式、システムの維持と存続のための機能的要件(AGIL)の概念を析出して、人間行為と社会的現実を分析したのである。別言すれば、単位行為と人間行為のシステムを地位・役割といった概念を使い、文化・社会・人格・行動に区分された諸システム間の関連を機能的システム論の立場から深く分析し、科学的に説明したのである。本書もまた彼の独創的な功績を重視している。
 社会システムを支え、特に今日まで社会に進歩をもたらしたのは、具体的現実的なマス・メディアを含んだ各種のメディアの働きであった。社会学の「メディア論」は、文化領域のシンボル論とも深く関連するが、大きく二つの流れがある。一つは、機能主義的社会理論によるパーソンズ、ルーマンらの人間を中心とした一般化されたシンボリックなメディア論の系譜であり、いま一つは、マス・コミュニケーションを媒介する技術としてのメディアが、コミュニケーション自体・社会構造・社会意識といかに関係をもつかを探る社会情報研究の系譜である。本書で展開するメディア論は主として前者に属している。一般にメディアというとマス・メディアを連想するが、技術も人間によって開発されるメディアであり、後者と前者の間には深い関連があると言える。
 本書の目的は、社会システムとその相互交換過程から導かれるメディアの特徴や問題点を明らかにしようとしたところにある。その特徴は、第一にパーソンズの一般化されたシンボリック・メディア論をさまざまな角度から考察した点、第二にパーソンズ以降の理論社会学者たちのシステムとメディアをめぐる諸問題を論究している点にある。第一章では、現代社会学理論の中枢を占めている行為システム論的アプローチについて、パーソンズをはじめハーバーマス、新明正道、ルーマンなどを中心に言及している。さらにシンボリック・メディアについては、歴史的事例としてアイヌ民族のイコロの例を取り上げて説明し、パーソンズのメディア論をより深化させようとした。

途中略

 パーソンズは現代社会を解明する際に、多くの概念用語を見出した。しかし、日本の社会学理論界において、一九八〇年代半ばに彼の理論の有効性に疑問が提示されて以来、理論分野自体はその中心を見失い、一時はすっかり停滞してしまったかのようにも見えた。本書は、現代社会の特質を捉えようとするものである。本書が理論分野の活性化を促し社会学全体の発展の一助ともなれば、われわれの努力は報われるのである。さらなる御叱正を賜りたく思う次第である。      二〇〇三年二月 編者一同

 
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