|はじめに|

 投票行動の分析には、判然と分けられるものではないけれども、ミクロ・アプローチとマクロ・アプローチの二つの側面があると思われる。例えば、投票行動と政治意識との関連を検討するとすれば、そこにミクロ・アプローチが不可欠であることはいうまでもない。そしてミクロのレベルにおけるアプローチによって種々の政治学的研究成果が得られていることも間違いない。
 しかしながら、投票行動へのマクロ・アプローチが欠かせないことは現代の政治学において充分認識されてはきたものの、社会の「構造的脈絡」において投票行動を捉えるといった観点からの研究成果はそう多いとは思われない。特に、都市化という社会の一特殊現象と投票行動分析とを結びつけるということは、1940 年代末から現在まで継続してなされてきたにもかかわらず、都市化自体に対する考察が不十分であるため、今なお十分な成果が得られているとはいえないであろう。
 そうした状況にあって、本書は投票行動を社会の構造的脈絡において捉えることを目的とした一つの試論である。また、本書は都市や都市化についての社会学的、経済学的研究成果を政治学に援用した一つの学際的研究でもある。その目的が達成されたわけではもちろんないが、それは今後の継続的課題である。

平成 14 年 8 月 26 日

 
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