|はじめに|
 創造性の研究は、必ずしも新しい問題ではない。ただ新しい見方と方法で探求しようとしているところに意義がある。その研究は、哲学的研究の面から見ると、すでに紀元前にさかのぼることができる。その後沢山のすぐれた研究が残されているが、創造性研究と銘打って心理学的に盛んに行われ始めたのは、1950年頃ギルフォード(Guilford, J. P.)を中心として実証的研究が行われるようになってからである。筆者は昭和30年(1955年)にマフィー(Murphy, G.)の創造性の考え方にふれて、思考とパーソナリティーの二つの概念が一つにまとまり、創造性の概念が芽生えたのである。これが動機となって、創造性の研究を始めるようになった。
 昭和36年、37年の文部省の総合研究「禅の医学的心理学的研究」(研究代表者は心理学者で当時東洋大学学長であった佐久間鼎)の分担研究である「創造活動と禅的体験における創造過程の心理学的研究」に参加して、「禅と創造性」を研究するようになった。すなわち禅的体験とくに悟りの過程と創造過程を比較研究することになったのである。
 座禅の心理学的研究は、昭和36年に始めるが、座禅の心理を明らかにするために、睡眠法、自律訓練法、ヨーガとの比較研究を行ったが、とくにヨーガの瞑想法が参考になった。なお念仏、唱題、マントラ、阿字観、気功法、誦経、浄土教の十六観法、ナンソの法、公案の拈提などと比較研究してうちに、これらは瞑想法として大きくまとめることができるようになった。そして瞑想法は、セルフコントロール法として、心身の自然治癒力を促進し、創造力や創造性の開発に役立つことがわかってきた。創造性の研究でも、西洋の研究者が東洋的な瞑想に基づく直観に注目するようになった。また禅の悟りや瞑想法の気づきは、心理臨床の治癒の過程に共通するものがあることがわかってきたのである。
 1970年代から世界の研究者とくに精神医学、臨床心理学、心身医学などの臨床家の間に東洋的行法としての瞑想の研究が盛んになり、心身の治療との関連において、瞑想法そのもの、それらを手直ししたもの、またはその原理を活用するものが出てきた。最近そうした目的をもって研究する国際的研究組織ができ、筆者も参加して、国内や国外で共同研究を行っている。
 西欧の心理学者は身体と心を対立的に見る傾向があるが、東洋の心理学では、身体と心を一つのものとして全体的に見る傾向がある。この点西欧の医学と東洋の医学においても同じことがいえる。心身を全体的に見ていくホリスティック医学が東洋医学に基づいて生まれてきたが、心身の障害を治療し、さらに心身の健康を促進するには、心から身体に働きかけるアプローチや心に働きかけるアプローチのみならず、心身一如として全体的にとらえ、そのセルフコントロールを促進していくアプローチすなわち東洋的なアプローチも必要である。この意味では、瞑想に基づく東洋的な方法と西欧の生理的、心理的な方法とを統合して、新しい方法を生み出していく傾向がでてきたが、今後そうしたことが、ますます必要になってくると思う。
 
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