|はじめに|


 本書は1999年に恒星社厚生閣から刊行した『食品衛生学』の第三版として上梓するものである。
 私たちが『食品衛生学』の刊行を思い立った1990年代後半は、堺市でのO157事件(1996)、いか乾燥菓子によるサルモネラ食中毒事件(1999)など、これまでとは異なる原因菌による大規模食中毒が相次いで発生し、また衛生化学の分野でも内分泌撹乱化学物質が話題を集めていた。一方、行政面でも食品衛生法が改正され(1995)、HACCPの考え方を取り入れた「総合衛生管理製造過程」の承認制度が始まるなど、食品衛生に関連した大きな出来事が続いた時期であった。
 当時私たちは大学で食品衛生関連の授業を担当していたが、従来の教科書では、実態にそぐわず不便を感じるようになったため、最新の情報をできるだけ取り入れ、わかりやすい教科書を作りたいと思った訳である。懇切丁寧かつ平易に記すよう努めたこともあって、いくつかの大学や短大で教科書として採用して頂くことができ、また読者からは好評を得てきた。
しかし、その後も、加工乳によるブドウ球菌食中毒事件(2000)をはじめ、カンピロバクターやノロウイルスによる食中毒事例などが急増し、加えてBSE(牛海綿状脳症)や食品の偽装表示、輸入野菜の農薬汚染、指定外添加物の使用など、食の安全・安心を揺るがす問題が次々と生じ、さらに行政面でも、消費者の安全確保を掲げた食品安全基本法が制定され、これを受けて食品安全委員会の設置、食品衛生法の改正など、大きな変化がみられた(2003)。そこでこのような変化に対応するため、『食品衛生学』を全面的に見直し、初版で触れなかったBSEや遺伝子組換え食品、食物アレルギー、農薬のポジティブリスト制、ISO 22000などの新しい話題も取り上げ、食中毒統計も最新のものと入れ替え、2007年に『食品衛生学第二版』として出版した。
 それから5年になるが、この間にも相変わらず多くの食品衛生上の問題が生じており、ユッケによるO111事件や東日本大震災(原子力発電所事故)に伴う放射性汚染物質の問題などは記憶に新しいところである。これらの事件に関連しては、生食用食肉の規格基準や食品中の放射性物質の基準値が設けられたりした。またトピックスとして、原因不明とされていた鮮魚による食中毒の原因生物が判明したこと、生食用食肉の指標菌として腸内細菌科菌群が新たに設けられたことがあげられる。今回、このような新しい問題に対処するため、再度内容を見直すとともにデータを更新し、稿を新たにしたのがこの『食品衛生学第三版』である。
旧版と同様、わかりやすく説明するよう心がけたので、大学や短大、専門学校などでの教科書や参考書としてのみならず、一般消費者や食品関連企業に携わる方々にも役立つものと考えている。
 本書の内容、構成についてはかなり入念に検討したつもりであるが、未だ不十分な点があるかもしれず、ご指摘,ご教示を賜れば幸いである。(後略)

  2012年 3 月
  山 中 英 明・藤 井 建 夫・塩 見 一 雄

 
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