|はじめに|

 われわれが生息している地球は,まことに広大であるように見えるが,食料資源となるものには年々枯渇が心配されるに至っている.そのうえ,現在環境の悪化が速かに進行しつつあり,これらを重層して考えると,今世紀における人類の食糧供給ひいては生存自体にも濃い暗雲がたちこめていると思わざるをえない.
 そこで,これを機に広大な海洋(他の水圏も含む)から得られる魚介類,海藻をはじめとする既存の水産資源を見なおす作業にとりかかる必要がある.また,資源のうちすでに食料,飼肥料,工業製品などに利用されているものだけでなく,未利用のまま投棄されているものにも着目し,将来における有効利用の可能性を検討する作業は急務であろう.
 水産分野における有効利用に関する取り組みは,すでに以前から様々な形で実践されてはいたが,平成12 年度日本水産学会(於福井市)で「水産ゼロエミッションの現状と課題」が,つづいて同13 年日本水産学会創立70 周年記念サテライトシンポジウムとして京都で「水産物の有効利用法開発に関する国際シンポジウム」が開かれて,今後進むべき道が提示されたように思われる.
 そして,平成22 年度日本水産学会(於藤沢市)では,シンポジウム「水産物の有効利用とゼロエミッション」が開催された.本書はこのシンポジウムの記録をとりまとめたものである.ここでは冒頭に示した,きわめて困難な状況下にあっては,あらゆる産業が持続可能な発展を意識した活動をせまられている.そのような意味において,農畜産業や食品産業の状況を垣間見ることは有意義であると考え,本シンポジウムでは「農畜産・食品系産業の廃棄物と有効利用」と題する項目を設けた.このシンポジウムの講演者に加えて,本書では特に「農産系」の部分に執筆者を補充して内容の充実をはかることとした.
 本書を編集する過程で,平成23 年3 月11 日に東日本大震災が発生し,多くの貴重な人命が失われ,同時にかぞえきれない資産の流失,これらに付随した深い失望や絶望などのありさまを目のあたりにした.この震災によって水産界や他の領域が被った被害はきわめて甚大ではあるが,将来への発展を期して,徐々に復興への足どりをたしかなものとしなくてはならない.今後は農畜産・食品系産業とも緊密に連携しつつ,循環型社会の構築に意を注ぐ必要がある.それはいまやわが国だけではなく,世界的な命題となっているからである.
なお,本シンポジウムでは,「現状と課題」,「農畜産・食品系産業の廃棄物と有効利用」,「水産廃棄物と有効利用」,「厄介ものとその利用」などの他に「ゼロエミッションの実施例」という項目もとりあげた.一般に有効利用とゼロエミッションの区別は明確ではないが,本書では有効利用の流れのなかでもっとも下流に位置し,環境との間で比較的関連性の高い領域や有毒物質の除去などの項目をとりあげて章を構成することとした.
 本書が,水産・農畜・食品などの関係者はもとより農芸化学,薬学,環境科学などに関連する諸氏の目にとまり,何かのお役に立てば望外の幸せである.(後略)

平成23年6月                                                    坂口守彦

 
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