|まえがき|

 我々の身の回りには,様々な食品が溢れている.しかも,食品メーカーは消費者や流通のニーズに応えるため,毎年数多くの商品を開発し,改善を加えている.その結果,スーパーマーケットやコンビニエンストアー等の商品棚には,毎月のように新商品が所狭と並ぶことになる.消費者は食品の購入に当たり,価格,美味しさ,量,便利さ,健康機能,安心及び信頼等様々な要因を総合的に判断している.また,その判断理由は年齢,性別および所得等の購入者の立場や季節,天候や気温によって変化する.

 食品作りやその販売は,単に食を供給するだけでなく,これらの様々なニーズや状況を理解し,食品開発や販売の戦略を立てなければならない.さらに,食の原料を生産する農業,食品メーカー,食品流通企業は協働して,食に対するその時代ニーズを満足させると共に,消費者に対し食や食品に関する正しい情報を提供し,消費者との信頼関係を構築することが求められている.まさに,食品産業は知識集約型の産業と言えるだろう.

 本書は,将来の人類に健康的な食生活を提供する農学,栄養学分野の大学生をはじめ,食品の開発,販売,教育に携わる人たちに,食づくりの基礎となる知識,先人達が英知を傾け工夫を凝らして完成させた食品加工技術と心を伝えることを目的にまとめた.執筆には,大学で食品に関する科学,技術や流通,安全に関して,研究し教鞭と取っている現職の教員が担当している.食品の加工に関する最新の情報を織り交ぜながら,知っておかなければならない基礎に重点を置いた.科学技術の革新が急速に進む現在,最新の知識もすぐに古くなる.最新の科学技術も先人達が築き上げた延長上に成り立っている.まさに温故知新,最新知識を理解するためには基本を知ることが重要である.

 「食」は人の健康,すなわち人の幸せな生活を築くためにある.この言葉を,全ての食に関する職業をつく者は,肝に銘じなければならない.また,食を正しく理解するためには,その源が生物体であること,命とそれを育む環境が大切であることを理解する必要がある.さらに,食品の原料の生物は化学物質で構成され,その化学物資によって人は命と体を維持していること,その化学物質の摂取量は過少でも過大でも,栄養失調,栄養過多等の問題が発生すること,食品が変質や腐敗すること等,基本中の基本であるが忘れてはならないことである.

 食品づくりに関する科学技術を理解するためには,生物学,化学,生物化学の基本的知識は欠くことができない.本書は,これらの知識についても配慮して執筆,編集を進めたが,ページ数の制約から基本的な記述に留めたことをお詫びしたい.執筆者一同,本書の内容だけで満足せず,関連の知識にも興味を持って学ぶことを大いに期待する.

            編者を代表して 高野克己
 
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