|序|

 本格的な 200 海里時代を迎えて以来,わが国の漁業生産量は漸減し続け,今や水産物の自給率は 60%前後にまで低下している.その主な原因は,沿岸国の 200 海里排他的経済水域の設定による漁場の囲い込みと公海における厳しい国際的な漁業規制にあるものと思われる.今後も消費者の需要に応えて水産物を十分に供給するためには,引き続き大量の水産物を輸入する必要がある.しかし,世界の水産物に対する需要は年々拡大する傾向にあるため,今後も世界各国からこれまでのように大量の水産物を確保できるか,疑問視されている.
 わが国の漁業生産の低迷する主な原因が国際的に規制の厳しい漁業環境と漁業資源の減少にあるとすれば,その回復は容易ではなく,またかなりの時間を要することは明らかである.しかし,今後も消費者の要望に応えていくためには,これからも続くであろう国内漁業生産の減少傾向に歯止めをかけることが必要であり,水産界あげてこの課題に取り組むことが重要である.一方,限られた水産資源の有効利用を強力に推進することも必要である.例えば,未利用・低利用水産資源の高度利用はもとより,水産物の流通・加工・貯蔵中における質的・量的な損失,消費段階における食べ残し等による量的損失の低減を図ることなどは重要な研究課題である.
 戦後,水産領域における研究は急速に進展し,多大の成果を収めてきた.それらの研究成果は,逐次専門書として編集・出版されて教育・研究のために広く活用され,水産学の発展に寄与すると共に,今後の水産資源の有効利用をはじめとする水産利用分野の研究の進展にも大いに資するものと思われる.
 本書は,最近の研究成果に基づいて,第一線で活躍中の研究者が分担して執筆した,水産食品の加工・貯蔵に関する解説書である.専門用語については「水産学用語辞典」に従い,できるだけ平易に記述するよう努めた.また,主要な化学名や専門用語には,前記用語辞典の範囲内で英語を付記した.
 水産系,食品系大学で学ぶ学生には教科書として,また水産業ならびに関連産業に携わる研究者,技術者には参考書として活用していただければ幸いである.なお,分担執筆のため記述内容に精粗や不統一などが気になるところである.忌憚のないご批判,ご叱正をお願いする次第である.
   平成 17 年 3 月 編  者

 
ウィンドウを閉じる