|はじめに|

 今日,私たち日本人が享受している食べ物は,実に多種多様である.その中にあって,水産物は古来日本人にとってことに主要な位置付けにあった.しかし近年,その比重は低下傾向にあるが,それでも,「漁業白書」にみると年間 1 人当たりの全食料支出に占める,生鮮魚介類および水産加工品を合わせた魚介類支出の割合は,1999 年で 11.4%であり,魚介類は依然として私たち日本人にとって重要な食料源であることに変わりない.
 最近では,わが国の水産物需要に占める輸入水産物の割合が著しく増加してきた.ちなみに,1999 年のわが国の漁業生産量は 662 万 6 千トン,生産額は 1 兆 9 千 9 百億円,これに対して輸入量は 341万 6 千トン,輸入額は 1 兆 7 千 4 百億円と極めて多量,多額に及んでいる.
 食品は,ヒトが生命を維持し,健康を保つために必要不可欠のものであり,またそれは私たちの生活を豊かにするためにも美しく,美味しくて,そして安全なものでなければならない.しかし,最近,食品の安全性を揺るがす不幸な事例,例えば 1996年の養殖トラフグからのホルマリンの検出,1996年(関西地方,かいわれ),1998年(北海道産,いくら),および 2001年(千葉県,牛肉製品)の腸管出血性大腸菌 O-157 による食中毒事故,2000年の大手乳業会社(総合衛生管理製造過程−HACCP準拠−承認工場)の黄色ブドウ球菌に由来する食中毒事故,その他が相次ぎ,大きな社会問題となった.
 食品の安全性を脅かす危害因子としては,微生物がクローズアップされるが,危害因子はそれにとどまらず,魚介毒,寄生虫,環境汚染物質や金属片など混入異物,あるいは最近では遺伝子組み換え操作など多岐にわたっている.一方,安全な食品を提供する側にあっては,今後,高齢化社会を迎えるに当たり,高齢者を含めた社会的弱者に対応した食品,あるいは取扱簡便な包装などへの配慮がなされるべきであろう.
 日本水産学会近畿支部では,2000年末,「水産食品の安全性」と題したシンポジウムを開催し注目を浴びた.その後,これらの成果を限られたシンポジウム関係者のみの内部資料として放置することなく,広く公刊し,利用していただいたら,より有意義なのではないかと考え,私ども仲間で話し合ったところ,折角,成書として発刊するのであれば,限られた時間のシンポジウムの内容の他に,水産食品の安全性に関する多岐の情報を加えるべきということになり,初期の企画の内容・分量ともに倍加し,書名も「水産物の安全性−生鮮品から加工食品まで」として発刊することになった.
 本書が農・水・畜産学系の学生・教員をはじめ,食品技術者,衛生担当行政官の方々にお役に立てば幸いである.
(以下省略)


2001 年 7 月
牧之段保夫

 
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