|はじめに|

  わが国は伝統的に麹菌や酵母、乳酸菌などの微生物を用いた醗酵産業が盛んであり、味噌、醤油、清酒、納豆、漬物などをはじめ、様々な食品が伝承されている。
 本書は、魚介類を原料として作られる醗酵食品のうち、塩辛、くさや、しょっつる、馴れずし、粕漬け、およびかつお節を取り上げ、それらの製法と品質、製造に関与する微生物の種類や醗酵の機序、ならびに品質劣化の要因などに関する既往の調査・研究成果を集約し、併せてこれらの醗酵食品の伝統技法に含まれる科学的意味を考察しようとするものである。
 とくに本書では、これまで水産醗酵食品の製法や製品についての知識が乏しいことに鑑み、できるだけ現地調査を行い、また研究成果の引用については可能な限り原報に遡って確認し、解説書などからの引用は極力避けるようした。論考に公平さを欠く心配や、取り上げた品目に片寄りや調査不足のある点は否めないが、これらについては、現在進行中の研究も含め、いずれ増補や改訂によって改めて行きたいと考えている。読者のご教示、ご批判を頂ければ幸いである。 本書は著者が大学で担当している食品微生物学の講義の参考書としても利用できることを考えて企画したものであるが、本書が日頃あまり知られていない水産醗酵食品についての知識の普及と、それらに対する適正な評価に少しでも役立てば望外の喜びとする限りである。

 増補版発行にあたって 本増補版(2001年)では、本文中に*を付し、初版後びおもな研究成果や見聞等を各章末に捕捉した。今回は紙面の都合で最小限の補筆に留めたので、関連の知見については拙著『魚の醗酵食品』(成山堂書店)も参照されたい。

 
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