|はじめに|

 「煙のような話だ」というと,実現性の乏しい,いかにもあやふやなことのたとえになっている.元来,木を燃やせば煙が発生し,この煙は目にも見えるし,鼻にも感じられるが,この煙の有用性についてはあまりよく知られていない.
 しかし,世の中には,広い分野にわたって多くの研究者があり,この煙の成分についても詳細な研究報告があり,木の成分との関係や燃焼の条件の影響など多くのことが知られている.この煙を利用して製造される「くん製」についても,原料の前処理から製造方法,保存法方に至るまで,多くのことが知られている.これらの知見をまとめて,「くん製食品」という書名で発刊したのが昭和 52 年であった.
 この「くん製食品」(恒星社厚生閣刊)は他に類書がなかったせいもあり,かなり好評であったようであるが,見直すと書き足りないところや説明不足なところ,勉強不足なところが目につき,つまり,大改訂の要を痛感していた.しかし,結局,何もしないまま十年余り経ってしまった.文献を集めたり,問い合わせたり,見学に行ったり,多少の努力はしたのであるが,何となくまとめる根気と自信がなくて,放置していたものである.
 幸い,高坂先生とグュエン・ヴァン・チュエン先生が援助して下さることになった.私が紹介するまでもなく,高坂先生は(社)日本食肉加工協会検査所長を長年勤めた後,相模ハム(株)の取締役や顧問などを歴任され食肉加工の理論にも実際に詳しいこの道の泰斗である.
 グュエン・ヴァン・チュエン先生は現在,日本女子大学の食物栄養学科の教授で,アミノ・カルボニル反応生成物の生体への影響など,広汎な研究をされているが,くん煙成分の分析や安全性のチェックなど,くん煙の分野でも自身で研究を進められた.NHKのくん煙番組にも出られたこともある.
 本書は,「くん製食品」を基にしてくん製装置と,ハム・ソーセージの項は高坂先生に,くん煙成分の化学と変異原性の項はグュエン先生にご執筆を願うことにし,書名も「スモーク食品」と改めた.
 最近はレジャーとしてのくん製も流行しているようである.くん製食品の歴史は古いが,近年は食品加工の一つとしてくん製が見直されている.本書がくん製を理論的に考えてみようという人の一助となり,くん製の発展に役立つことが出来れば幸いである.


平成 9 年 1 月
著者を代表して   太田静行

 
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