|はじめに|

  珍味は美味にして、珍なる味がある。
  珍味は長い歴史をもつものが多いが、新しく珍味ともてはやされ、定着していくものもある。
  歴史は川の流れにたとえられるが、珍味もまた、この流れの中で現われ、また消えて行く生を負っているようである。
  古今東西、人間のもつ「美味求信」の生がある限り!
 最近、数多くの“珍味”が市販されるようになった。このわた、からすみ、うになどは古くから日本の珍味の代表的なものとされてきて、現在でも珍重されているが、価格的にも日常の惣菜とははるかに離れたものになっており、結局、一部の食通しか食べられないものとなっている。
 一方、裂きいか、いかくん、たこくんなどは大衆珍味とよばれ、価格的にも手頃で、一般に広く利用されている。これらは生のものに比べて、流通上かなりの保存性が望まれ、そのため、水分をかなり減少させてあり、乾き珍味とよばれている。


 珍味の類は酒の肴とされることが多い。酒の席では、もちろん、いろいろな話が出るが、時には、肴について、栄養的な意義とか、名産地とか、製造法などについて話されることもある。酒の席で出た話などはほとんど全部忘れてしまって覚えていることは少ないが、なかには記憶に残っていることもあり、その後で調べてメモにしておいたものもあり、日本の諸地方の名産品を積極的に集めて試食した時期もあり、これらをまとめたのが、本書「珍味」である。
 本書「珍味」は四人の共著である。我々四人は従来から食品業界の友人同志である。細かくいえば、会社における先輩、後輩であったり、大学の同窓であったりなかったりするが、一同食品業界に長く暮らしてきた現在では友人とか仲間という言葉がぴったりすると思われる。著作に当って、一同が会して構想を練るというようなことはせず、それぞれが得意とするところを分担し、それぞれが分担以外のところを補筆した。でき上がってみると、重複するところもなく、抜けたところもないようである。


 多少苦労したのは珍味の範囲をどこまでにするかであった。珍味の範囲はその意義によって決められるが、その定義が本文にもあるようにかなりあいまいなのである。定義を広くとれば、ほとんどすべての食品が珍味になってしまうし、特に“珍”ということに重きをおくと、とんぼやとかげのしっぽを食べた経験などのいわゆる“げてもの”の趣味になってしまう。結局、一般的に珍味と見られているものおよび珍味と称している物を、独断であるが、本書では珍味とする。
 本書が、“珍味”およびその周辺の業界の発展に寄与でき、また、酒の肴として役立てれば、信に幸いである。

 
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