|はじめに|

 最近、食品の健康増進に係わる機能についての関心が急速に高まってきており、水産食品もその例に漏れない。健康食品ブームの一翼を担う形で、水産食品の有用生が盛んに宣伝されているが、その価値が必ずしも正確に伝えられているとはいい難い。最近のわが国における水産物の需要動向をみると、エビ,カニ,イカ,マグロなどの需要が急増している反面、漁獲量の多い大衆魚の需要は逆に低迷している。安価な多獲性魚類には目もくれず、世界各国に高級魚介類を買い求めるといった贅沢が横行している。

 また、わが国では有り余る食料供給があり、そのため過食、美食に陥り、肥満、糖尿病、高血圧症、動脈硬化症などの成人病などに悩む人が増加している。高度な経済発展を背景に「豊かな食事」を追い求めた結果が、皮肉にも成人病を誘発しているとすれば、真の「豊かな食事」とは何であるかを問い直さねばならない。一方、発展途上国では、食糧不足から栄養不足や栄養失調に陥っている多くの人がいるという現実があることを忘れてはならない。
 健康な日常生活を送るためにはいろいろな要素があるが、とりわけ食べ物がその原動力として大切な要素であることには異論はない。水産食品を人々の健康増進に役立てるためには、まず第一に魚介類および貝藻類の栄養特性を十分に理解し、さらにその特性を生かして利用する手立てを考える必要がある。しかしながら、水産学の分野では、水産食品が栄養素としてヒトの健康にどのように役立っているかという問題はこれまであまり取り上げられず、軽んじられてきたといっても過言ではないだろう。
 本書の目的は、魚介類および海藻類のもつ栄養機能を中心に、健康増進に係わる機能について最新の知識を提供し、水産食品の特性をより深く理解してもらうことにある。健康増進につながる真に「豊かな食事」とはどのような食事かという問いかけをも含め、食生活と健康の問題を考える上で、本書を水産学を学ぶ人達、食品学、家政学、栄養学などを学ぶ人達にも役立てて頂くことを願っている。

 
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