|はじめに|

 現在,政府が進めようとする自然再生基本方針は,地域に固有の生物多様性の確保,地域の多様な主体の参加と連携,科学的知見に基づく順応的な実施など,自然再生を進める上での視点を示している.これまでは,有識者の支えのもとに行政が計画を立案し,実施してきたが,今後は一般市民も参加した形で意志決定が図られなければならなくなる.しかし,現状では,大阪湾をはじめとする沿岸域の環境について,十分な知識の共有が図られていない.この知識の共有化が今必要とされている.
 生態系工学研究会は1987年に活動を開始した研究者の集まりであり,「劣化した生態系の改善と修復」「望ましい生態系の積極的な創出」を図るべく,生物学,生態学,化学,物理学の各分野の研究者が結集し,「生態系工学」と称するべき学問体系の構築と,独自研究や技術開発,現場への応用を行ってきた団体である.事業の一環として,1987年から2009年の22年間に数多くの公開シンポジウムを,また,沿岸域環境について基本から学ぶ機会を望まれる方々を対象とした基礎講座を開催し,沿岸域の環境について議論を行い,知識の普及に広く努めてきた.
 本書は,そのような経緯のもと,多くの参加者からの要望により産まれたものであり,生態系工学研究会が初めて公表する書物である.難しいことをできるだけ平易に分かり易いように記述することに努めたが,紙数の関係もありやや難しくなったことも否めない.しかし,身近にある大阪湾を共通のフィールドとして,環境再生について一通り学習できるよう,構成,執筆を行った.大阪湾の現況や私たちの生活との関わり,環境再生への取り組みについて,大阪湾の環境再生につながる情報を一通り取りまとめたつもりである.
 日本の各地で環境再生の問題が横たわっている.各地で環境再生に取り組んでおられる方,そして,考えておられる方が,本書を参考書として活用していただければ幸いである.

 平成21年10月
 生態系工学研究会

 
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