|はじめに|

 1990年代に入り,環境中に存在する内分泌かく乱物質が野生動物に影響を与える事例が多く報告されるようになり,人への影響も懸念されたことから大きな社会問題となった.また,水生生物に対する内分泌かく乱物質の影響として,コイ,ローチ,カダヤシ,イボニシなどで生殖内分泌系への悪影響を示唆する報告が相次ぎ,水産資源に対する悪影響が危惧された.しかし,これらの報告は極めて断片的であり,数多い水産生物のほとんどの種で影響実態やその作用機構が不明であり,わが国の水域環境における汚染の実態も未解明であった.このため,内分泌かく乱物質による漁場環境汚染の未然防止のためにもこれらの解明が緊急の課題となった.
 そこで,農林水産省農林水産技術会議事務局は,関係研究機関の協力を得てプロジェクト研究「農林水産業における内分泌かく乱物質の動態解明と作用機構に関する研究」(1999〜2002年)を推進した.水産総合研究センタ−は,本プロジェクト研究において,日本沿岸における内分泌かく乱物質の動態を明らかにするとともにバイオマーカーなどを用いた影響の測定技術を開発し,水生生物への影響実態を解明した.さらに,魚類については内分泌かく乱物質の生殖機能への影響や性行動などについて作用機構を解明した.
 本書は,プロジェクト研究の成果を踏まえて,内分泌かく乱物質,特に女性ホルモンと同様な作用機構を有する物質の漁場環境や水生生物に対する影響を集約するとともに,残された課題,問題点および今後の研究推進方向を探ることを目的として「環境ホルモン−水産生物に対する影響実態と作用機構−」の題名を付け取りまとめたものである.水産業に携わる人に限らず幅広い分野の方々の参考に供していただければ幸いである.
 終わりに本書のとりまとめに当たって,ご協力いただいた各位に深く謝意を表する次第である.
   2006年3月
(独)水産総合研究センター瀬戸内海区水産研究所長
秋山敏男

 
ウィンドウを閉じる