|はじめに|

監訳者序
 本書はN. El Bassam 編著「ENERGY PLANT SPECIES」(Published by James & James(Science Publishers)Ltd., 1998)の全訳である.

 バイオマスは環境負荷の低い次世代の再生可能エネルギーであることは,広く認識されているが,その賦存量については意見が分かれところでもある.わが国に限っていえば,バイオマスのエネルギーとしてのポテンシャルは,一次エネルギーの最大限 10%程度であろうと報告されている.しかし,長期的かつ世界的な視野では,世界の一次エネルギーの相当量を賄えるという報告が多い.シェル社の報告によれば,2050年ではバイオマスによって世界の一次エネルギーの約 50%,IPCC によれば約 70%,グリンピースによれば約 45%,また世界エネルギー協議会によれば約 40%となっている.それぞれ値は違うものの,相当量がバイオマスから賄われることが期待されている.これらは,いわゆるエネルギープランテーション(本書では農場と訳した)によるものである.すなわち,未利用あるいは余剰の土地に,エネルギー生産を目的としたバイオマスを植えて,あたかも農業から食糧を得るように,持続的にプランテーションからエネルギーを生産するシステムである.
 これらのバイオマスはエネルギー作物と称されるが,木質以外にも草本系や微細藻類なども含まれている.これらのエネルギー作物を体系的に記述したのが本書である.本書は 2 部構成で,第 2 部が本論と称すべき内容が記述されている.個々のバイオマスの一般的な性質,生態学的な特徴,生育方法,管理方法,処理法や利用法,生産量,病害虫の問題など,極めて広範囲に解説されている.先に述べたバイオマスのポテンシャルに対しても,科学的な裏付けのある回答が得られるものと考える.従来,このような書物はないといって過言ではなく,生産からエネルギー変換技術まで広範なバイオマス研究者や技術者にとって,非常に有用であると考える.第 1 部では,バイオマスの伐採技術やエネルギー変換技術,環境への影響,社会経済的な観点からの記述で,読む側としてはうれしいことである.
 本書を訳するに到った経緯は,2000 年 7 月に英国のブライトンで開催された,世界再生可能エネルギー会議で,著者の Bassam 氏に直接お会いし,本書を紹介されたことが発端である.帰国後,株式会社恒星社厚生閣社長である佐竹久男氏のご理解のもと,関係同僚の協力によって,この度の出版に到った次第である.訳出に手間がかかり,予想より大幅に遅れたが,この間ご辛抱して頂いた恒星社厚生閣の皆様に対して,訳者を代表して心から御礼を申し上げる.特に,編集部の片岡一成氏には一方ならぬご尽力を頂き,厚く御礼を申し上げる.翻訳に当たり産総研谷口寛之氏に協力して頂いた,御礼を申し上げる.
 末尾ながら,本書がバイオマス関連の研究者,技術者,政策担当者などに座右の書として広く読まれ,バイオエネルギー普及促進の一助になることを期待している.
 なお,訳出に当り,読者の便を考慮して節項目を設け,番号を付した.また,索引は日本語版のために新しく項目選定をし 50 音順に並べたことをお断りしておく.
   2004 年 3 月
               監訳者を代表して 横 山 伸 也

原著序
 今日,世界で 20 億人以上が近代的なエネルギーを利用できていないと考えられる.エネルギーは発展にとって必要不可欠であることは理解されているが,現在でも近代的なエネルギーを利用できない人々が多いということについて,国内的にも国際的にもあまり関心は向けられていない.
 1 人あたりのエネルギー消費量は,近代化や国の発展の指標となっている.このようにエネルギー問題や政策は,エネルギー供給の拡大に強く関係している.エネルギー消費パターンの戦略的重要性や環境への影響の重要性は,長い間無視されてきた.世界の国々はその需要を満足させるべくエネルギーを求める一方,そのエネルギー利用が社会,環境,経済,安全保障へ与える影響を顧みていない.地球上の多くの危機は,安価な原材料,特に安価なエネルギー資源の安定供給を求めて引き起こされてきた.この危機の圧力は,化石由来エネルギー資源やウランが枯渇するにつれ増大することであろう.これらの資源は,予測より長く採掘可能と思われるが,新規の資源が発見されなければ枯渇するという根本的な問題は残り,この問題は人類にとって最大の課題となるであろう.
 現在のエネルギーシステムは,持続可能ではないことが明らかとなっている.すべての再生可能エネルギー資源の中で,短期・中期的に最も貢献が期待されるのはバイオマスである.エネルギー作物由来の燃料は,再生可能というだけではなく,元々バイオマスから生成した化石資源由来の燃料と類似しており,直接代替可能である.バイオマスは,既存あるいは新規の変換技術によりいろいろなエネルギー媒体に変換可能で,21 世紀の新しいエネルギー資源としての可能性がある.
 この本は,エネルギー資源を生産するための農場(プランテーション)で栽培可能な種々のエネルギー作物の可能性について,適切な改質技術や変換技術,環境・経済・社会に与える影響など様々な情報をまとめている.
 困難で時間のかかる原稿の準備をして貰った B. Prochnow 氏に最も感謝している.いろいろな情報を提供して頂いた S. G. Agong 氏,W. Bacher 氏,C. Baldelli氏,D. G. Christian 氏,L. Dajue 氏,C. D. Dalianis 氏,W. Elbersen 氏,J. Fern?ez 氏,A. K. Gupta 氏,K.
 この本がエネルギー需要の増大に合わせ,バイオマスが経済や社会において決定的に重要な役割を果たせることに関し興味や理解の助けとなり,将来の化石資源の枯渇や地球温暖化といった問題解決に少しでも役立つことを願っている.
N. El Bassam
ブランシュビッヒ(Braunschweig)にて,1998 年 3 月

 
ウィンドウを閉じる