|はじめに|
 この本は生物資源を対象としたデータ解析手法のポイントを解説したものです。ベイズ統計や確率分布について基本的な考え方を対話形式で紹介しています。最近、有名になったモンティ・ホール問題や、ペテルスブルグの賭などについても解説していますが、前半の主題は次の2つのパラドックスです。

(ソーバーのパラドックス)
 試行数n=20,成功数r=6の場合に成功率pについての帰無仮説「H0:p=0.5」を検定する。二項分布を用いるとr=0〜6および14〜20の確率は0.115となるから、α=0.05で棄却できない。一方、負の二項分布を用いるとn=20〜∞となる確率は0.0319となるから、α=0.05で棄却できる。どちらが正しいか?

(平均値のパラドックス)
 1変数の資源変動モデルをN(t+1)=N(t)λ(t)と定義する。ここでNは資源尾数、λは成長率である。良い環境ではλ(t)=α=3.9で増加し、悪い環境ではλ(t)=β=0.1で減少する。このとき期待値は算術平均E=(α+β)/2=2であるから資源は増加する。しかし実際は幾何平均がG=√αβ=0.6245となるため資源は減少する。どちらが正しいか?

 どちらも生物資源のデータ解析における「初歩的な問題」ですが、正確に解答できる人は少ないのではないでしょうか。これらについて実例を踏まえて分かりやすく解説します。前者は二項分布と負の二項分布およびベータ分布に関係し、後者はランダム・ウォークと対数正規分布に関係するので、統計学や確率論の初歩で用いる数式が出てきます。
 そのため数理統計および確率計算に関する基礎的な重要事項を後半に解説しました。また実例として筆者の専門である水産資源について基本的な数理モデル、および資源評価手法についても解説しました。通常の教科書と違って、できるだけ「直観的」に理解できるように工夫したつもりです。この本に目を通すことによって、生物資源解析の基本的な考え方をマスターして、研究現場のデータ解析に活用されることを願っています。
(後略)

2015年3月
     赤嶺達郎
 
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