|はじめに|

 ペンギンはなぜ飛ばないのか? じつは、この問いには3つの意味がある。1つ目はどういった物理的な理由でペンギンは空中を飛べないのかという問題だ。2つ目は飛ばない代わりに海に潜ることはペンギンにとってどんな利点があるのかだ。そして、3つ目はペンギンは長い時間をかけて空を飛ばなくなったのか、それともはじめから飛ばなかったのかという問いだ。1番目の問題に答えるのは簡単だ。翼が小さいから。そのとおり。では、なぜ翼が小さいと飛べないのか? 空中と水中で働く力のちがいと、海鳥のかたちと運動のしくみがわかれば、よりくわしく答えられる。この本ではおもにこの問題について説明する。2番目の問題(生物の“ 適応”、つまり環境の中でいかにうまくやっているかについての問い)と、3番目の問題(生物の進化あるいは歴史についての問い)に答えるのはむずかしい。まだはっきりした答えはないが、これらにも挑戦してみようと思う。
 鳥は空を飛ぶのに適した「かたち」をもつ。そのかたちを使って、海へと生活の場を移したのが海鳥たちである(図0-1)。生活の場が海であるとは、食べ物のすべてを海から得ているということだ。彼らの食べ物は海の中にいる魚やイカ、エビなどである。これらを食べるために、海鳥はハトやカラスなどの陸鳥とはちがった特徴をもつ。
 その特徴とは運動のタイプだ。海鳥たちの5 つの運動のタイプについて紹介していこう(第2章)。これらは鳥であるという制約のもとで、いいかえれば鳥としての特徴をいかしつつ進化した空中と水中で生活するための5つの工夫である(第3〜6章)。また、海鳥が進化してきた数千万年にわたる歴史の中で何度も試されたパタンでもある(第7、8章)。そしてこれらのパタンをもったおかげで最近になって悲劇にみまわれている(第9章)。
 海鳥というとどんな種類の鳥を思いうかべるだろうか。港にいる「カモメ」や東京上野の不忍池の「ウ」くらいしか思いうかばないのではないだろうか。じつは、世界には340 種くらい海鳥がいる。そこで、まず海鳥とはどんな「生きもの」なのかを紹介しよう。

 
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