通電加熱はジュール加熱とも呼ばれ,かまぼこの加熱のために1990年代に日本で実用化に成功し,練り製品産業で広く使われるようになった技術である.その後,魚肉すり身と同様に流動性があり電気的に均質な特性を有する味噌,チーズ,マヨネーズなどの加熱殺菌にも使われるようになり,我が国の食品産業の技術革新に貢献している.しかし,練り製品以外の水産加工産業への通電加熱技術の普及は非常に遅れており,普及の阻害要因は,水産食品は大きさや形状が不揃いで電気的処理が難しい,さらに組織が脆弱で壊れやすいものが多く連続的な機械処理が難しい,などの技術的な問題があげられる.これらの阻害要因は農産食品にも当てはまる問題でもある.
食品の加熱方法には,外部加熱方式と内部加熱方式がある.一般に広く使われているのは対流伝熱,伝導伝熱,輻射伝熱を原理とする外部加熱方式であり,湯の中で煮る,蒸気で蒸す,火で焼くなどの方法があるが,いずれも食品の内部まで熱が伝わり全体が均一に温められるまでには相当の時間とエネルギーを必要とする.一方,内部加熱方式には通電加熱やマイクロ波加熱(電子レンジ)や通電加熱がある.
通電加熱は,電気抵抗体である食品に電気を流すことで食品自体が自己発熱して加熱される仕組みであるため,外部加熱方式に比べ様々な優位性がある.例えば,@比較的短時間で表面部も内部も均一に加熱ができる,A基本的に水などの熱媒体を必要としないため美味しさ成分などが逃げない,排水処理経費も少なくて済む,B対流を必要としないため粘性の高い食品でも加熱殺菌が容易である,C電気エネルギーのほぼ100%が熱エネルギーに変換される,などである.このように通電加熱は省エネ,省コスト,高品質化,安心安全などに有効な,ポテンシャルの高い技術である.
このポテンシャルの高い通電加熱を,ありとあらゆる水産食品・農産食品の製造業界でも利用できるよう,民間企業,地方公設試験研究所,大学が連携して基礎研究,技術開発,装置開発まで幅広く取り組み,実用的な成果を上げることができたので,その内容を紹介する.
本書では,@通電加熱の将来展望,A世界で初めての装置開発,B通電加熱により初めて可能となった酵素制御,殺菌,ゲル化の新知見,C10以上の水産食品の品質と安全性の向上に応用された通電加熱技術,などが紹介されている.水産物および農産物に関連する食品企業,食品研究機関,大学,行政機関などで,これらの内容を活用していただき,食品に関わる科学振興の振興と技術の革新に役立てていただくことを期待する .
本書の内容は農林水産省「新たな農林水産政策を推進する実用技術開発事業・通電加熱技術の導入による水産食品の加熱及び殺菌技術の高度化(21〜23年度)」の成果に負うところが多く,ここに記して感謝申しあげる.
平成25年9月
福田 裕 今野久仁彦 岡ア惠美子
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