|はじめに|

イワシ類とはどんな魚
 日本では、どこに行っても一年中魚屋にイワシが並んでいる。スーパーでも鮮魚コーナーでは氷水のなかに生のイワシが散らばり、干物売場には目刺しが整列し、シラス干しは山積みになっている。料理のだしをとる「いりこ」や「煮干し」などの乾物も袋入りになって棚に並ぶ。これらはみんなイワシの仲間だ。
 日本のどの地方でも海で漁獲されたイワシが水揚げされて魚市場に並んでいる。北日本での水揚げが夏から秋に集中するのに対して、西日本では一年を通してイワシ類の水揚げが続く。また、関東から九州の太平洋沿岸では、真冬を除いてほぼ一年中イワシ類の子どもであるシラスが魚市場をにぎわせる。
 このように私たちの身のまわりにはイワシがいっぱいである。イワシがいない食生活は考えられない。注意深い読者は、イワシが実は1種類ではないことに気づいているだろう。私たちの食卓に上るイワシの仲間にはどんな種類がいるのだろうか。
 魚屋に並んでいる生のイワシを見てみよう。体長が15〜23 cmほどで、背から腹までの幅(体高という)がやや広く、体の横(体側)の面から見るとサヤエンドウのような形をして、やや緑がかって見えるのはマイワシだ(図0-1)。このマイワシと比べると体長が十数cmと小さく、体高が低いので短いインゲン豆のような形をしており、茶色っぽい色に見えるのがカタクチイワシだ(図0-2)。カタクチイワシの下あごは短くて、上あごより引っこんでいる。カタクチイワシという名前は上あごが目立つ「片口いわし」のことである。そしてマイワシとカタクチイワシの中間の体形で、目が大きくうるんで見えるのがウルメイワシである(図0-3)。ウルメイワシは西日本でたくさん水揚げされるが、北海道や東北地方では漁獲されない。マイワシ、カタクチイワシ、ウルメイワシの3種類が、日本でまとまって漁獲されるイワシ類である。丸のまま、缶詰や干物として、あるいはいろいろな料理のだしとなって私たちの食卓に上る。
 (中略)
 日本の漁船によって水揚げされる魚類の量は、近年では全部合計して約350万トンで、イワシ類はこのうちの15%ほどを占めている。1980年代には今の3倍近い約1000万トンの魚類が漁獲され、そのうちの40%以上がイワシ類だった。私たちの生活になじみが深いイワシ類は日本人にとって大切な食料資源であることがわかる。世界の海では2009年に魚類が6670万トン水揚げされて、そのうちの30%がイワシ類であった。世界の海でもイワシ類は重要な資源として大量に利用されている。そんなイワシ類の生態や資源の増減、そして人間とイワシ資源とのかかわりを、詳しく見ていくことにしよう。

 
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