|はじめに|

 改訂版第二版への序文
 2008年5月に刊行された「改訂・魚病学概論」は、4年を待たずして再版の運びとなった。多くの方に利用されている証で、編者の大きな喜びとするところである。初版が出てからあまり年月が経過していないため、当初はごく軽微な追加・修正を加えたうえで再版する計画であった。しかし、この僅か数年の間に起きた変化は予想を上回るもので、あらためて魚病学という学問分野の進展の速さを痛感させられた。それらの変化を受け、病名や病原体名の変更だけでなく、ウナギのヘルペスウイルス性鰓弁壊死症やアサリのブラウンリング病など4つの新疾病をリストに加えた。結局、最新の知見を盛り込んだ新版は、単なる刷り増しとするには変更点が多かったため、合わせて表紙の色も変え、第2版として刊行することとした。 わが国の食糧自給率を改善するためには水産増養殖を更に発展させる必要があり、魚病学の重要性もそれにつれて増すものと考えられる。それを考えれば、本書も何年か先には、視点を広げ、新たな執筆者を加え、全面的に改訂した「概論」に衣替えする必要があろう。それはさておき、この改訂第二版が、魚病学を学ぶ方々にとって良き教科書として従来にも増して愛用されることを願う次第である。
(後略)
    2012年2月
                                               編者を代表して 小 川 和 夫

 

 1965 年(昭和 40 年),当時東京大学農学部水産学科の学生( 4 年生)であった私は東京水産大学の保科利一教授と私の指導教官であった江草周三助教授のお二人で担当されていた科目「魚病学」を受講した.
 どんな内容であったか,正直なところあまりよく憶えていないが,保科先生が Aeromonas punctata(現在の A. hydrophila)の性状を詳しく説明され,黒板に書かれた糖分解の詳細な結果を意味もわからずに必死にノートに書き写したことを思い出す.その頃,魚病学に関する教科書はなく,丁度 1965 年に出版された「養魚学」(恒星社厚生閣)の中にある「魚病」の章(著者:保科利一,四竈安正,江草周三)が唯一の参考書といえるものであった.古い方はご存知かと思うが,1937 年(昭和 12 年)に既に「魚病学」(藤田経信,厚生閣)なる本が出されていたが,寄生虫関係はともかく,私が専攻した細菌性疾病に関してはその当時既にほとんど役に立たない内容であった.
 あれから丁度 30 年が経過し,1966 年に発足した魚病研究談話会は1980年に日本魚病学会となり,わが国における魚病研究は大いに発展してきた.この間に「魚の感染症」(江草周三,1978),「魚の病理組織学」(江草周三ら,1979),「魚病学[感染症・寄生虫病篇]」(江草周三編,1983,1988)などいくつかの優れた本が出版されてきた.
 現在,私は大学の 3 年生を対象に「水族病理学」なる講義を担当している.自分が分担執筆していることもあり「魚病学[感染症・寄生虫病篇]」を一応教科書のような形で使用しているが,いささか詳しすぎ,また本のタイトルからもわかるように魚病学全般をカバーするものではなく,いつも自分なりのプリントを用意し講義に臨んできた.そして常々,魚病学を学ぶ初心者により適した教科書があればと感じていた.2 年位前から日本魚病学会主催で一般社会人を対象とした魚病講習会が開かれているが,そのお世話をした時に魚病学全般を概観できるような適当な教科書の必要性を改めて痛感した.
 このような状況を踏まえ,江草周三先生と新しい教科書作りを企画したところ,それぞれの分野の第一線で活躍しておられる専門家の方々に快く分担執筆をお引き受けいただき,また恒星社厚生閣の佐竹久雄社長のご賛同を得ることができ,本書が誕生する運びとなったわけである.本書を作るにあたり,それぞれの分野における主要な問題点を集約するとともに,病原体や病気の種類については主要なものを網羅した一覧表を作成し資料として使いやすいようにし,更に各論としてそれぞれの分野での代表的な病気をいくつか選び,平易に解説することにより理解を深めるよう努めた.
 その結果,コンパクトで使いやすい教科書ができたと自負しているが,無論欠点も多々あるものと思われる.読者の皆様の忌憚ないご批判をいただきながら,将来より良いものへと変えて行きたいと考えている.
 本書に接した学生あるいは異なる分野の研究者が一人でも多く魚病学に興味をもち,将来魚病研究に携わっていただけることを期待している.
(以下省略)
                1995年12月 室 賀 清 邦

 
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