|はじめに|

 「日本人ほど魚の好きな人種はいない」と、よく耳にします。この場合の「好き」には、食べることはもちろん、釣ること、見ることなども含まれているでしょう。
 私も子どものころ、父に連れて行ってもらったハゼ釣りやフナ釣りが、きっかけとなって、魚の面白さに魅せられてしまいました。そして、大学、大学院と魚のことを学び、水産試験場に就職し、とうとう魚にたずさわることを生涯の仕事としてしまったのです。
 水産試験場(現神奈川県水産技術センター)での長い仕事の間、漁業者はもちろんのことですが、子どもたちや一般の方たちと魚の話をする機会もたくさん持ちました。そんな折に、子どもたちやお父さん、お母さんからは、魚に関する質問や疑問が、たくさん寄せられました。
 その内容は、私たち魚のプロからみれば、「あっ、こんなことも知らなかったのかぁ」、「あっ、それは誤解しているなぁ」というようなことが多いのです。回答を聞くと、たいていは「ああ、そうなんだ! 知らなかったなぁ」と、皆さん、うなずきます。食べるにしても、釣るにしても、見るにしても、日本人は魚好きなわりには、意外と魚のことを知らないのではないでしょうか?
 「魚ばなれ」といわれ、食卓に魚メニューが少なくなってから、久しくなります。その原因は、「骨がある」、「なまぐさい」、「触るのがイヤ」、「魚価が高い」、「調理がめんどう」などいろいろあるようです。現在は、「魚ばなれ」も少しずつ改善されつつありますが、まだまだ十分ではありません。
 私が思うに、その基本的な解決策は簡単です。家族の料理番であるお母さん(ときにお父さんも)方が、魚を素材とした美味しい料理をたくさん作って食卓に並べること、そして、海や川へ子どもを釣りに連れて行くことだと思っています。
 それには、まずは魚のことを知ることです。知れば知るほど、魚への興味がふくらんでくるはずです。
 そんな想いから本書は、子どもたちやお父さん、お母さんから実際にあった質問をもとに、「魚のこんなところも紹介したいなぁ」と私が考えた想定質問もまじえて、Q&Aのかたちで書いてみました。一般の読者に限らず、中学生くらいなら一人で読めるようにやさしい言葉で読みやすくを念頭に、本文はできるだけ専門用語や教科書的な解説はさけて書いたつもりです。そのぶん、脚注をつけたので、より興味を持たれた方は脚注も読んでみてください。
 さらに項目ごとに、引用あるいは参考にした図書・資料の番号を付けていますので、これらにも目を通していただければ、より「ああ、そうなんだ!」度も深まると思います。
 より魚のことを知っていただき、より魚に親しみを感じていただき、さらには魚食の普及にもつながれば、私の目的とするところであり、幸いに思います。
 また、ところどころに私が永年かけて収集してきた「さかなグッズ」のごく一部を紹介してみましたので、目でも楽しんでいただけたらと思います。
(後略)
2010年11月                                                    著者

 
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