|はじめに|
 水圏生物はカロテノイド,フラボノイド,プテリジン系色素,メラニン,インドール系色素,キノン系色素,オモクローム,テトラピロール系色素など極めて多様な色素を有している.これらの色素は水圏生物の生存のために様々な働きをしているに違いない.私たちは日常的に魚介類を摂取しているわけだが,これら色素は私たちの体に何の影響も与えないのであろうか.もちろん,タイの鮮やかな赤色は食欲を刺激し,嗜好性という重要な食品機能を有することは明らかである.しかし,色素が水圏生物の生存にとって,重要な役割を担っているのなら,私たちの体にも何からの作用を及ぼすのではないだろうか.

 近年これらの色素に抗炎症作用,抗がん作用などの栄養生理機能が見いだされ,大きな話題となっている.なかでもアスタキサンチン,フコキサンチンなどのカロテノイド類の血管新生抑制,抗肥満,免疫調整機能などには研究者,学生のみならず,機能性食品の開発担当者なども強い関心をもっており,その最新の情報が待ち望まれている.色素の研究は単に水圏生物中における存在量を測定したり,生合成・分解経路を明らかにしたりするだけでは不十分であり,ヒトにおける消化吸収,代謝,生理機能発現機構の解明も含めた総合的な研究の必要性が認識されるようになっているが,従来これらの視点からの研究は極めて乏しく,その必要性が強く指摘されている.

 また,呼吸色素タンパク質のメト化やメラニン生成による甲殻類の黒変は,単に外観の変化をもたらすだけでなく,変色中に,あるいは既存の変色防止技術の適用により,栄養機能性を低下させたり,活性酸素などの有害物資の生成を促したりすることが明らかにされつつある.したがって,食品の安心・安全の視点からもその機構を明らかにして対策を講じることが重要視されている.
 本書は水圏色素の中でも特に重要なテトラピロール色素,カロテノイド,メラニンについて,一層の研究進展と研究成果の利用に資するため,最新の研究
と成果の実用化事例についてまとめたものである.
                     平 田  孝
                     菅 原 達 也
 
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