|はじめに|
 計量魚群探知機の普及により,水産資源調査の効率が飛躍的に向上し,スケトウダラなど中層性魚類の資源調査で活用されている.しかし計量魚群探知機は万能でなく,海面付近の探知が難しく,また探査範囲が狭いという原理的な問題を抱えている.一方,近年のIT技術の進歩により,広範囲の水中を高速に探査できる高性能のスキャニングソナーが次々と開発されている.
 スキャニングソナーは魚群探知機のように真下方向の魚群や海底を探知するのとは異なり,水平方向に広範囲の探索を瞬時に行なうことができる.そのため魚群の探索や分布状況,そして魚群の動き等が容易に判断できる.
 こうしたことから,世界的にスキャニングソナーを用いた資源調査法への関心が高まっている.スキャニングソナーを用いた資源調査法の利点は,広範囲を効率よく探査できるばかりでなく,魚群形状や海底地形などを3次元的に把握できるほか,対象魚群個々の魚群規模を見積もることが可能なことである.さらにGIS手法を用いて,生物,地理,環境等のデータを統合的に解析することにより,漁況予報や環境影響評価など,多方面での応用が期待される.
 こうした情勢を受けて,平成18年4月,日本水産学会シンポジウム「音響資源調査の新技術−計量ソナー研究の現状と展望−」が開催された.シンポジウムには国内ばかりでなく国外の研究者や企業からも多数参加し,最新の計量ソナー研究の現状と問題点が議論された.そこでは,最近のソナー技術の進歩には目を見張るべきものがある反面,魚群探知機ではあまり問題とならなかった,音の屈折,海面や海底からの残響,魚の横方向ターゲットストレングス,データ量の増大によるデータ解析の難しさなどが,解決すべき課題として指摘された.かつて,魚群探知機による資源調査法を検討した時期に,様々な問題点を議論し,それらを克服して,現在の計量魚群探知機が生まれ,広く普及するようになった.今,計量ソナーに関する基礎研究が,世界各地で行なわれており,やがて水産資源調査の有効なツールとして普及することだろう.
 この度,シンポジウムの成果を水産学シリーズとして出版するにあたり,第1編ではスキャニングソナーの基礎や最新の技術動向を,第2編では国内外で実施されているスキャニングソナーを用いた資源調査の実際を,第3編ではスキャニングソナーを資源調査に利用するための技術的課題を中心に編集した.また,巻末には世界の代表的な計量ソナーの要目を掲載した.
 すでに計量魚群探知機などを用いて音響資源調査に携わっている研究者や学生,そして次世代の音響資源調査法である計量ソナーに関心のある読者の一助になれば幸いである.
                       飯 田 浩 二
 
ウィンドウを閉じる