|はじめに|

 筆者らの前著「基礎水産動物学」が世に出てはや十数年が経過した.当時としては最新の知見を網羅したつもりであるが,その後分子生物学をはじめとして生物学の発展は目覚ましく,海洋生物に関しても多くの新しい知見が得られている.また,それぞれの動物と我々との関わりもずいぶん様変わりをし,書き直しを必要とする個所も少なからず出てきた.
 本書はこのような現状に鑑みて,この間明らかにされた主な知見を含めて,内容を一新して書き直したものである.  旧版は,水生無脊椎動物はもとより,魚類をはじめとする脊椎動物も網羅して,文字通り水圏に生息する動物全体を扱った点がそれまでの類書と趣を異にしたものであったが,今回の改訂に際し,このスタイルを踏襲するかどうかが企画の段階で大きなテーマとなった.1冊に水生動物をすべて網羅したことが本書のアイデンティティーとして認知されてきた面は決して小さくなかったと思われるが,一方で,限られた紙面に盛りだくさんの項目を含めることで,割愛しなければならない部分も多くあった.加えて,今回は筆者が一人で改訂にあたることになったため,筆者の能力面での制約も加わって,結局,本改訂版では無脊椎動物に限るのが適当であろうと判断し,結果としてかなり大幅な変更を加えることになり,改訂の意図を明確にするために,書名にも無脊椎動物と明記することにした.無脊椎動物に限ることで,従来の類書のスタイルに戻ることになったが,スペースに余裕ができたことで,最初に総論部分を設け,無脊椎動物について全般的に記した上で,各論で個々の分類群についてより詳しく記述することで,読者の理解を得やすいよう配慮した.
 また,筆者の元同僚の豊原治彦氏に水生無脊椎動物に関する最近のホットな話題を主に生理・生化学的な視点から解説してもらったコラムをいくつか挿入し,読者に水生無脊椎動物に興味を持っていただけるよう工夫もした.
 このように,大幅な改訂を試みたとはいえ,本書は,前著同様入門書として意識して書かれたもので,各章ともごく基礎的な事項を中心に扱っている.より専門的な勉強をするための最初のステップとして本書を活用いただければと思っているところである.
 本書の上梓は,前著の主著者であり筆者の恩師でもある岩井保京都大学名誉教授からの熱心なお薦めで実現したもので,先生の御配慮に深く謝意を表したい.また,御多忙のところ筆者の依頼に快く応じていただいた豊原治彦氏および一部の挿入図のトレースでお世話になった花岡皆子氏の御厚意に感謝する.
 いうまでもなく,本書の内容はすべて先学の諸賢によって得られている貴重な成果に基づいたものであるが,挿入図表以外は,読みやすさを優先させることで,原則として個々の記述の出典を記さなかったことをお断りしておく.
 執筆の過程で,前著同様多くの方々に御教示と貴重な資料の御提供をいただいた.とくに,別記の方々からは,本書出版の意義を御理解いただき,御多忙のところそれぞれの御専門のお立場から素稿の査読をしていただいた上,数多くの貴重な御教示を賜った.御指摘いただいた多くの御教示はできる限り本書に反映させたつもりであるが,全体の統一性を考慮して一部従えなかった点もあり,したがって,本書の内容に関する責任はすべて筆者に帰するものである.以下省略

平成18年8月 林  勇 夫

本書の素稿を御査読いただき,種々の御教示を賜った下記の各位にあらためて深く感謝申し上げます. 朝倉 彰,有山啓之,上野正博,奥谷喬司,木島明博,久保田信,五嶋聖治,小島 博,小林 哲,崎山一孝,桜井泰憲,白山義久,青海忠久,田近謙一,寺崎 誠,直海俊一郎,萩原篤志,藤田敏彦,藤原建紀,藤原正夢,松田浩一,馬渡峻輔,柳澤豊重,山崎 淳,葭矢 護,和田克彦,渡辺洋子(五十音順,敬称略)

 
ウィンドウを閉じる