|はじめに|

 現在,ブリあるいはハマチと云えば,スーパーで一年中刺身や切り身で売られている大衆食材のイメージが定着しているが,北陸地方や西日本各地では古くから天然ブリ(寒ブリ)が正月を中心にした冬場に消費され,依然として高級魚として取引されている.これは,従来高級魚であったブリの養殖が1960年代から開始され,その後のたゆまぬ技術開発により,現在では生産高1000億円*を超える業種に成長を遂げた結果,ブリが天然ブリと養殖ブリに商品として二極化してきたためである.このように,ブリは養殖魚のなかで最高の生産高を占めるとともに,わが国の魚食文化においても古来より重要な位置を占め続けてきた重要種であるが,その重要性にもかかわらず,最近まで天然群の資源生態には不明の部分が多く,また,安定した種苗生産が難しいため,養殖用の種苗は依然として天然モジャコに依存する状態が続いていた.しかし,近年,ブリの生態と資源動向に関する新たな研究成果が得られるとともに,種苗生産や育種に関する最新技法の革新,確立により,ブリの安定した種苗供給と育種に新たな展望が見えてきた.一方で,ブリ養殖産業はわが国魚類養殖業の代表的業種であるとともに,魚類養殖業のあらゆる問題を内包した縮図でもあるため,その基本的問題の提示と解明は,ブリのみならず,今後確立が期待されている,ウナギやクロマグロ養殖産業の事業発展を図る際に,先行例として重要な価値をもつものと思われる.このような背景のもと,2005年4月4日に東京海洋大学においてシンポジウム「ブリ−その資源・生産・消費」を開催した.

 
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