|はじめに|

 本書は,魚類以外の水産動物と水産植物の中で,特に産業的に重要な種を選び,それら各種の生物学的特徴,増養殖環境,種苗生産,育成管理,病気と対策,集出荷,需給見通しなどをできるだけ新しい研究成果をもとに概観し,「水産増養殖システム」についての新しい概念を世に問うことを意図したものである.したがって,主な読者層としては,大学の水産増養殖学分野の学部学生・大学院生,大学・試験研究機関・企業の研究者などを想定しているが,一般の消費者,養殖業者,加工業者,輸出入関係の商社や各種の団体などの方々にも広くお読み頂けるよう,各対象種にかかわる産業(増養殖生産,加工,流通)の歴史,現在の問題点,発展方向や食文化に関する話題やトピックスについてもできるだけわかりやすい表現で紹介することに努めた.
 分担執筆者は,各々の対象種についてわが国を代表する研究者である.執筆者の人選と執筆依頼は編者の責任で行ったが,編者の専門外である藻類関係の人選にあたっては,特に東北大学在職時の同僚であった谷口和也教授のご意見を尊重した.本書においては,対象種が多岐にわたり,かつ大勢の執筆者故に,内容に濃淡が出るのは当然と考え,編者からは敢えて調整や修正を求めなかったが,結果的には以下に述べる1つの理念に添ってまとめることができたと思っている.
 編者が講演などの際に好んで使う言葉の1つに「海を生かし,海に生きる」がある.「海を生かす」には2通りの意味が込められており,1つは海洋環境を破壊しないように守ることである.もう1つは,海を正しく活用することである.両方を合わせて言うと,海の環境をできるだけ良い状態に保ちながら,海洋の生物生産の余剰分をいただき,かつ幾らかでも生産を人為的に高める手段を講じることによって得ることができた海からの贈り物をありがたく頂戴することが「海を生かす」ことである.その結果,人類が生存できるわけであるから,「海に生きる」ということになる.多くの食料を海に依存している人類にとって,その表面積の約75%を占める海洋を積極的かつ主体的に活用することが余儀なくされている.しかし,海は無限に開発を許すほど寛大ではないし,人類が生き残るためには自然と調和しなければならない.結論的に言うならば,「地球環境調和型の水産増養殖システム」の構築とその実践こそが「海を生かし,海に生きる」ことそのものにほかならないのである.本書がこの理念によって貫かれていることを読者の皆様にご納得頂けるならば,編者にとってこれに勝る幸せはない.
以下省略

2005年10月1日

   東北大学名誉教授・財団法人かき研究所理事長 森 勝義

 
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