|はじめに|

 内水面における漁業権は共同漁業権第5種共同漁業として位置づけられ,漁業権取得のためには対象となる湖沼,河川が水産動植物の増殖に適した環境であることが必須であり,免許を受けた漁業協同組合に対して増殖義務が付せられる特徴がある.そのための事業資金調達の手段として,遊漁規則を定めて組合員以外の採捕者から遊漁料を徴収することが認められている.したがって,免許取得組合は釣り場環境を整備し,遊漁者のニーズにあった魚種の放流を推進,多くの遊漁者を集めようと努力しているが,ややもすると,遊漁料収入を増加させるのみの増殖事業となり,漁業権の本来の理念とは乖離した方向に進む傾向も認められる.
 一方,余暇時間の過ごし方の多様化に伴い,遊漁においても従来と異なった価値観が生じ,遊漁業界とも言うべき産業の進展,そのことが新たな釣り場の拡大と環境の破壊,外来魚の不法放流などに結びつく側面が生じた.
 湖沼・河川を魚類資源の生息場所として,また観光資源として継続的に保全・活用するためには遊漁を含めた内水面域の運用・管理計画の策定が必要であろう.
 日本水産学会水産増殖懇話会では内水面漁業の活性化と密接不可分の関係にある遊漁が抱えている問題について,学界から業界にわたり幅広い議論を行い,共通認識をもつ必要性を感じて,平成14年10月5日に日本大学生物資源科学学部において講演会を実施した.内容として,はじめに内水面と遊漁として学界と業界から,次に遊漁者と漁協ならびに釣具業界から,そして遊漁と資源管理から,それぞれの立場で現状と課題の紹介があり,その後総合討論を行い,問題点と今後の方向性について議論を深めた.


開会の挨拶
1.内水面と遊漁
 1) 中禅寺湖における遊漁の現状と課題
 2) 遊漁のための種苗供給における実状と課題
   ―マス類・アユ
2.遊漁者,漁協の立場から
 3) 渓流域におけるマス類の自主放流について
 4) 釣具業界の実状と課題
 5) 漁協の立場から−手賀沼を中心として−
3.内水面における遊漁と資源管理
 6) 霞ヶ浦・北浦における遊漁と環境問題
 7) 芦ノ湖における水産資源の持続的管理
 8) 内水面における遊漁の諸問題
総合討論
閉会の挨拶

 本書はこれらのテーマについて取り纏めたものである.なお,講演会の実施から約 2 年が経過しているが,内容的には読者に十分満足して頂けるものと思っている.

2005 年 2 月1日 日本水産学会水産増殖懇話会

 
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