|原著第二版に対する序文|
  水中での光の振るまい,あるいは生産性を決めたり,水圏生態系内の生物の群集構造に影響を与えるという点での光の役割は,これまで一世紀以上もの間,引き続き重要な研究分野であり,この課題の物理と生物の両面を理解する必要性から,この「水圏の生物生産と光合成」が生まれた.この本は世間に十分に認識され,今や研究者だけでなく,大学の講義などでも良く利用されている.第一版が出版されて 11 年が経ち,この分野に関する関心は以前より格段に増した.例えば,地球の温暖化という点では,この本は地球上の炭素循環における海洋の役割の重要性,そして,海洋の一次生産の定量的評価と理解について見直す必要が生じてきている.加えて,海洋の一次生産のリモートセンシングの可能性には大きな期待がかかっている.その可能性は,ちょうど第一版が出されたときに,初期の CZCS 画像で明らかとなった.さらにそれに続く CZCS 画像は海洋植物プランクトン分布に関する理解を大きく深め,世界中の航空宇宙局からは新規に海洋観測向けスキャナーが続けて打ち上げられる旨の発表があり,海洋学においてこの分野を非常に活発で刺激的なものにした.
 しかし,衛星に搭載された輝度計が海洋から受けとる光のフラックスは,海水の組成に関する多くの情報を含んで海中から大気へ出てくる.従って,これらのデータを解釈するためには,水中の光の場やその特性が水中の何によって決まってくるのか,について理解する必要がある.
 水中光に関する興味は尽きるどころかさらに高まってきており,研究者のみならず,大学での教育用としての適切な教科書が望まれている.このため,第一版はすでに売り切れ,この度,ここに完全な改訂版を用意した.海洋の生物と光に関する分野は多く研究されてきており,膨大な文献を参考にせねばならなかったが,図を引用する場合には有用なもののみ選び,ほかの多くの論文等については省略せざるを得なかった.とは言っても,第一版に比べて,この第二版では約 2 倍の文献を引用した.
 SeaWiFS のスキャナーと機体の図を提供下さった Orbital Science Corporation の K. Lyon 氏に感謝する.また,この本を書くに当たり,助成金 N00014-91-J-1366 を戴いたアメリカ合衆国海軍研究所の海洋光学計画に感謝する.
 
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