かまぼこ,ちくわに代表されるねり製品はわが国の伝統的魚肉加工食品である.これらの製品には特有の弾力性に富んだしなやかな食感があり「足」と呼ばれている.「魚肉に食塩を添加して」,擂潰すると肉糊となり,これを加熱するとかまぼこゲルが形成される.1980
年代始めにこの「足」の素,すなわち加熱ゲル形成の主役は魚介肉の主要な構成タンパク質であるミオシンが担っていることが明らかにされた.その後「足」の実体であるミオシンやアクトミオシンによる網目構造の形成機構などの研究が進められ,最近では種々の魚介類ミオシンの一次構造の解明とともに,ミオシン分子内のドメインやサブフラグメントのゲル形成における役割が詳細に解析されるようになってきた.
魚介肉を構成するミオシン以外のタンパク質もミオシンの加熱ゲル形成に参加し,かまぼこの「足」に魚種特異性を賦与するなどの重要な役割が明らかにされてきた.さらに,魚介肉のねり製品製造過程には畜肉のハム・ソーセージの製造工程にはみられない坐りと戻りという特有の現象があり,坐りは「足」を強化し,「戻りは脆弱化させる」ことが知られている.これらの現象の原因究明も進められた結果,坐りは魚介肉中に存在している酵素,トランスグルタミナーゼによるミオシンの架橋重合が深くかかわっていることが明らかにされた.一方,戻りにはプロテアーゼが関与しており,これらのプロテアーゼの特定,プロテアーゼ阻害剤の影響などが研究されている.
魚介肉のゲル形成に関連する水産学シリーズとして,平成 3 年に「水産加工とタンパク質の変性制御」が刊行されているが,魚肉ねり製品に関して全般的なものは昭和
59 年の「魚肉ねり製品−研究と技術」以来刊行されていない.
この間の魚介肉のゲル形成機構やゲル形成能に関する研究は上述のように飛躍的に進歩しており,その成果を纏めることは,水産食品学に携わるものとしての責務であり,すり身およびねり製品の製造技術の革新や,各種魚類の有効利用に寄与するものと考え,下記のシンポジウムを企画し,平成
13 年 4 月 5 日,日本大学生物資源科学部で日本水産学会の主催により開催した.
本書は,このシンポジウムの講演内容に基づいてまとめたものであるが,紙面の制約もあり行き届かなかったところもあると思う.しかし,この分野における研究の進展状況を示すことができ,今後の研究に役立つことができれば幸である.
最後に,本シンポジウムの開催と運営にご尽力をいただいた日本水産学会関係各位並びに座長,話題提供者,討論に参加いただいた諸氏にお礼申し上げる.
平成 13 年 6 月
関 伸夫・伊藤慶明
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