|はじめに|

 近年,資源管理の方策を考える上で,漁具の漁獲選択性の重要性が再認識されるとともに,混獲回避のための選択漁具の開発も進められている.こうした中で漁具の漁獲選択性を評価するための解析手法の確立が急務となっている.実際にはこれまで漁具の漁獲選択性について多くの解析手法が開発されてきたが,体系的に纏められたものがなかった.このためにいずれの手法がどのような場合に利用可能であり,適切であるかを個々の文献や資料だけでは十分に判断できない.一方,選択漁獲も保全生態学の観点から論じられる段階にきている.
 そこで,東京水産大学で開催された日本水産学会春季大会時の 2000 年 4 月 1 日に,シンポジウム「漁具の選択特性の評価と資源管理」を下記のような内容で行った.これまでの漁獲選択性の解析と評価の手法を紹介し,それらを体系化するとともに,資源管理上の問題点と今後の展開を検討した.(中略)

 本書は当日の講演内容に質疑応答の趣旨を考慮して執筆し,編集したものである.まず,最初の 2 つの章では,貝類に対するかご網や桁網と魚に対する刺網について,生物の体型の情報から選択性曲線を理論的に推定する方法を取り上げた.これらは,操業実験を行うことなく,生物の体型を計測することで選択性曲線を予測できる点で役立つであろう.また,操業実験実施の前の予備的な検討にも利用可能である.選択性は種々の操業条件によっても影響を受けるために,資源管理への応用を考えるならば,できるだけ実際の操業条件で求めておくことが望ましい.こうした点で,第 3 章以後の操業実験から得たデータの解析方法は重要である.まず,第 3 章では袋網のような S 字型の選択性曲線について,第 4 章では刺網にみられる釣鐘型の選択性曲線を取り扱う方法が示されている.第 5 章では比較操業実験の資料の解析方法として近年,標準的な手法となった SELECT モデルについて,また第 6 章では分離装置付漁具の評価方法を取り上げた.最近では,選択性曲線を求めるために最尤法など統計的な取り扱いが多用されるので,これを第7章で取り上げた.第 8 章では選択漁獲による資源の有効利用を評価する方法を取り上げる一方で,選択性を資源管理の方策の一つとした場合に生じる問題点を第 9 章で紹介した.最終章では,選択的に漁獲することが生物進化の観点から見て,生物の生活史に対してどのような影響を及ぼす可能性があるかを指摘した.
 本書が今後の選択漁獲や資源管理の研究の発展に少しでも貢献できれば幸いである.(以下省略)
平成 12 年 9月
東海 正・北原 武

 
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