|はじめに|

 第 2 次世界大戦後の半世紀,日本漁業は沿岸から沖合へ,遠洋へと発展してきた.しかし,200 海里経済水域の設定に伴い,遠洋からの撤退を余儀なくされ,さらに環境・資源問題に基づく国際的な規制強化の方向は,日本漁業に深刻な打撃を与えてきた.最近の国連海洋法条約の発効が日本の水産界を衰退に追い込むのか,あるいは沿岸での資源管理と栽培漁業の推進により漁業に再生をもたらすのか,そのいずれとも予断を許さない転換期に直面している.しかし,食糧危機の予想される 21 世紀を控えて,漁業先進国日本の役割は極めて重要であり,日本人の英知が試されているといっても過言ではないであろう.
 日本列島は弧状に亜寒帯から亜熱帯まで伸展しており,各海域の海洋環境および生物資源は極めて変化に富んでいる.寒海を象徴するものは暴風と濃霧であり,その厳しい自然は,強い日光の注ぐ南国の海とは比ぶべくもない.
 しかし,寒海の苛酷な自然条件は地球規模の海洋大循環を通して,北洋に豊富な生物生産をもたらしている.かかる海洋環境は北大西洋,南大洋にも形成され,世界の水産資源を溷養してきた.日本近海では親潮がその恵みの源流である.
 北海道の北側には冬季結氷するオホーツク海,東側には親潮の南下する北太平洋が拡がり,比較的低緯度に位置するにもかかわらず,周辺を寒冷な海に囲まれている.北海道の水産業の歴史は古く,コンブ・ニシンなどの水産物は江戸時代から北前船により上方に運ばれていた.明治以降開拓の初期に,サケの人工孵化放流,タバラガニの缶詰製造等,欧米の新技術が導入されたが,当時の水域に資源が豊富に存在していたことは想像するに難くない.現在に至るまで,北海道は国内漁業生産量の相当部分を挙げており,今後も良質の魚介類生産に重要な役割を担うことが期待されている.
 平成 10 年 9 月,日本水産増殖学会道東地域研究集会が北海道根室市で開催された.根室は北洋漁業の基地として繁栄していたが,最近の人口減少の示すとおり,200 海里問題の影響を最も強く受けた町である.水産資源の豊富な北方四島の帰属は今なお未解決であるが,ロシアとの間では漁業問題を中心に種々の交渉が粘り強く行われてきた.根室の置かれている厳しい状況はまさに岐路に立つ日本水産業の縮図といえる.本書には,根室シンポジウムの講演および関連する研究発表の一部が収録されているが,水産業の再生に向けての模索,また提言としてお読みいただければ幸いである.
(以下省略)


1999 年 7 月 20 日
橘高 二郎/出口 吉昭/平田 八郎/山崎 文雄

 
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