|第二版によせて|

 「赤潮の科学」は1978年から84年の7年間にかけ、文部省科学研究費環境科学特別研究により実施された研究を中心に、それまでの多くの赤潮関連の研究成果を取り纏めたものである。執筆者一同は、本書がわが国における赤潮対策に資するとともに,今後の赤潮環境学として新しい学問分野が確立することを願いとしてきた。
 丁度、本書の諸般が刊行された1987年11月には、高松市に於いて国際赤潮シンポジウムが開催され、アジア諸国を含め27か国からの90名を超える外国人研究者を迎え、300名近い参加者が一同に集り赤潮に関する、発生状況、環境研究、生物学的研究および毒の化学について報告し、世界の沿岸各地で発生している赤潮の実態が明らかにされた。その年の夏には、播磨灘南部でChattonella赤潮による養殖魚の甚大な被害が発生したものの、その後の瀬戸内海に於ける赤潮の発生件数は減少して、1990年代には100件以下となってきていた。
 この間、東南アジア、その他の地域で大きな赤潮問題が起こり、日本学術振興会やユネスコ、政府間海洋委員会(Intergovermental Oceanographic Commission,IOC)のSubcommitteeであるWESTPAC(西太平洋研究機構)により発展する一方、わが国の赤潮研究も大きく進展してきた。
 これらの研究の取組みの中から有毒プランクトンPhyrodinium bahamenseやChattonella antiquaのシストの発見、国立環境研究所によるメゾコズムによる現場実験、海洋バクテリアの働きなど赤潮に関した優れた研究が蓄積された。一方、水産庁を中心に大学、各水産研究所、各県水産試験場などの協力のもとに赤潮対策技術開発試験などを進めてきている。
 本書の再刊に当たっては、その後の10年間の研究成果を充分に取り込み、また新知見を増補して第二版を企画した。ことにシストについては、長崎大学松岡藪光教授、京都大学今井一郎助教授、メゾコズム研究では国立環境研究所渡辺正孝部長、バクテリアについては京都大学石田祐三郎教授(現名誉教授)に新たに執筆を依頼し、諸般の内容も各項目別に充分に再検討していただき、第二版の意義を果たすことができたと自負している。
 製作に当たって新知見などは当該個所に挿入し、その出典・文献は文献末に明記した。但し、初版に掲げた文献は先学諸兄の努力の結晶であり、文献学的意義もあり、そのまま掲載した。また編集委員であった広島大学沿道拓郎教授が惜しくも逝去されたが、その内容については同大学松田治教授によって引き継がれた。有毒成分の科学的研究を取り上げることができなかったが、東北大学安元健教授の業績や約3年毎に開催されているInternational Conference on Toxic Phytoplankton のProceedingを参照されたい。
(以下省略)


1996年12月
岡市友利

 
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