|はじめに|

 夜空を見上げると,数え切れない星々が私たちに語りかけてきます.その言葉の聴きとり方には,いろいろな方法があります.最初は,優れた視力をもつ観測者が,ていねいなスケッチを残しました.望遠鏡が発明されてからも,変わらず人間の眼が光をうける装置でした.
 それが劇的に変わったのは,写真が発明された時でした.当初は真昼の風景を写すために,20分ほど時間がかかるという低感度でしたが,改良が重ねられて天体を写せるようになりました.初めての天体写真は,数時間かけても淡くかすかに写る程度でした.しかし写真の登場によって,人の主観に左右されず科学的に測定できる時代を迎えたのです.写真の優れている点は,写った天体の位置が正確に測れるだけではありません.ヨウ化銀の化学反応によって画像を作り出す写真は,明るさに応じ黒さを増します.これによって天体の明るさを測ることができるようになったのです.やがて,天体からの光をスペクトルに分けて記録・測定もできるようにもなりました.そして,ヨウ化銀は塩化銀に変わって,さらにカラー写真まで生み出すまでになりました.
 最近の大きな変化は,電子技術による写真です.CCD カメラというデジタル機器が天体観測に革命を起こしました.光の強さに応じて生じる電気信号を,画像として保存することができるようになったのです.デジタル化された画像は,コンピュータ上で解析ができるようになりました.初期のCCD カメラは高価で大きな装置で,個人が持てる機器ではありませんでしたが,ここでもうひとつの革命が起こりました.フィルムカメラからデジタルカメラへの進化です.その速度は,秒進分歩といわれるほど早く,もはや天体写真専用カメラと肩を並べる高感度,高画素です.
 スナップ写真のように天体写真が撮れる時代がやってきました.いままでの天体写真と大きく異なる点は,画像解析ソフトを使用することによって,だれでも簡単に測定ができるようになったことです.私たちは,デジタル化した天体画像の活用方法を,10 年間にわたって研究してきました.急速に進歩したデジタルカメラは,教育・普及に携わる人々,自然を科学しようとする人々にとって,簡単に測定可能な画像を得られる機会を提供します.宇宙に関するさまざまな事実を,自分で撮った画像を使って調べることができるのです.その魅力,楽しさを知ってもらうために本書は刊行されました.「マカリ」は,天体画像解析ソフトとして,プロ級の画像解析ができる能力があり,現在最も多くの人に使われています.本書はその使い方のすべてを解説しています.

                        鈴木文二

 
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