|はじめに|

 本演習書の最初の版『宇宙を解く』が出版されたのは1988 年のことである.1993 年には大きな改訂がなされ『新・宇宙を解く』と名称も改めた.しかし,その後の20 年ほどの間に,現代天文学は大幅に歩みを進め,宇宙の加速膨張の発見や多くの系外惑星の発見など,めざましい進展をみせている.また,本書の最初の版が出た頃は,翻訳書も含め日本語で書かれた教科書はほとんどなかったが,現在では数多く出版されるようになり,現代天文学の世界を学ぶ書物はずいぶんと増えたようだ.一方で,本書のような演習をメインにしたテキストは,20 年経っても他に類例が出ていない.そこで数年前から,この20 年ほどの成果も取り入れた内容にすべく大改訂を進めてきて,ようやく本演習書の新版として紹介することができる段階になった.演習書のタイトルも『超・宇宙を解く』と改めた.
 現代の天文学は,力学,電磁気学,量子力学,統計力学,流体力学,素粒子物理学,相対論といった物理学を含む宇宙物理学,そして宇宙化学,宇宙生物学ないし異星生命学,惑星気象学,惑星地質学,隕石鉱物学など,科学のほとんどすべての分野にまたがった学際的な学問になっている.本書では演習書形式ということもあり,科学一般に関して,ある程度の予備知識は前提とせざるをえなかったが,一般の物理学の教科書にはあまり書かれていない宇宙物理学的な基礎概念については,第1章に「現代天文学の基礎概念」として10 節に分けてまとめてある.現代天文学を本格的に学びたいと思っている方は,まず,この第1 章をしっかり学習することをお薦めする.
 第2章から第6章までは,対象とする天体ごとに,ごく標準的な順序で並べてある.すなわち,第2章「太陽系と太陽」,第3 章「恒星の世界」,第4章「連星とブラックホール活動」,第5章「銀河系と星間物質」,第6章「銀河と宇宙」の順である.この第2章から第6章までの配列はかなり便宜的なものであり,通し番号を付けた各節は,原則としては任意の節から始めてもらって構わない.自主的な学習のために,すべてではないが,各節にある問題の略解も巻末に掲載した.また,単位や物理定数,各種データ,天球座標,誤差と最小二乗法など,演習に必要と思われる最小限の情報は付録として掲載した.
 本演習書は,理学部や教育学部理系の学部生を主なターゲットにして書かれているが,大学レベルの現代天文学を自主的に学びたい大学生や高校生,現代の天文学について学び直したい方々,さらに大学その他の講義の補助教材など,本演習書をさまざまな形で利用していただければ幸いである.
 2014年6月
           沢 武文,福江 純

 
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