|はじめに|

  『宇宙プラズマ物理学』と題した本書は,その内容から了解いただけるように,この方面の研究をすすめるに当たって,必要不可欠な広い範囲にわたっている.
 その範囲は,地球大気の上層,100km辺りから,そのさらに上層に広がる大気が電離(イオン化)されているいわゆる電離層,その外側に広がる地球からの磁場が,プラズマや荷電粒子の運動に強く影響を及ぼしている地球磁気圏,さらにその外側には,太陽大気の外延を形成するコロナ・ガスが,太陽風と呼ばれる超音速の流れとなって太陽系の空間中を,膨張していき,最終的には,天の川銀河空間に広がるプラズマと磁場と出会って,せきとめられ,太陽圏(Heliosphere)と呼ばれる広大な領域を形成している.その太陽圏の大きさは,太陽が向かう方向では,およそ100天文単位(1天文単位:A.U.は太陽・地球間の距離でほぼ1億5000万km),その反対側は,この距離の2倍ほど遠くまで広がっている.
 天の川銀河空間にも,電離(イオン化)した気体であるプラズマが存在し,そこには,いわゆる銀河磁場が,おおよそアームに沿って広がっており,この領域も当然,宇宙プラズマ物理学の研究領域となっているというわけである.
 本書の長さは,この領域の広さと比して,手に取ってみればおわかりのように,あまり厚くはないが,その長さは,「文献解題」の項に示してあるスピッツァー(L. Spitzer)とカウリング(T.G. Cowling)が,それぞれ著した2つの本と,大体同程度である.これだけの長さの中に,宇宙空間にあまねく存在するプラズマの物理学的な研究に必要にして十分といってよい必須の事柄が,記述されているのである.
 本書には,著者の最も大切だと考えていることの全てが,大部の書物ではないが,含まれているので,基礎的な勉強をすすめるに当たっては,十分にその役割を果たしてくれるであろう.このような目的の下に,本書が作られているのである。

 
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