|はじめに|

 太陽は夜明けとともに東から昇り,夕べには西へ沈む.月は,3日月になったり半月になったり,満月になったり,いろいろに形を変えるようにみえる.晴れた夜空には,星々が輝き,星々が形作る星座が賑わっている.毎日忙しく暮らしていると,空を仰ぎ見ることはあまりないかもしれないが,ときどき目を上げて天界を眺めてみると,そこには様々な変化があることが見て取れるだろう.
 夕方に,部屋の中や帰宅途中などで,西の空を眺めることができる人は,太陽が沈む場所や時刻が季節によって違うことに気づいているのではないだろうか.満月が東の空に昇るのは,常に日没の頃だと気づいている人もいるかもしれない.季節によって夜空に見える星座が違うことを知っている人は多いだろう.さらに星座の星々の中では,位置を変える明るい星―多くは惑星―が動き回っていることもある.注意深い人は,星々の色合いが少しずつ違うことにも気づいているだろう.
 このような少し注意すれば日常的な生活の中でも観察される天体現象がある一方で,宇宙探査機は,太陽や月面や小惑星や火星などの詳細な画像を送ってくる.地上に設置された巨大な望遠鏡や軌道に打ち上げられた天文観測衛星は,肉眼ではわからない星々や星雲の姿を露わにし,銀河や宇宙の果ての様子を明らかにしつつある.誰も見たことがないのに,今では私たちは,宇宙のあちこちにはブラックホールと呼ばれる時空の裂け目が存在していることを“知っている”し,ダークマターと呼ばれる得体の知れないものがたくさん存在していることも“知っている”し,さらに宇宙そのものが約137億年前に誕生し現在も膨張し続けていることを“知っている”.
 本書は,身近な天体現象から最新の天文学の成果まで,できるだけ日常生活とのつながりを保ちながら,系統的に紹介した教科書である.現代に生きる私たちが,天界の書物を読み解くために知っておいて欲しい最小限のことがらだと考えているので<天文学ミニマム>という呼び方をしている.もっとも“教科書”とは言っても,事実だけを書き並べたものではなく,教育現場で働いている執筆者それぞれが,自分たちの体験なども織り込みながら,あるいは身の周りのことがらとも関連づけながら書いたものなので,天文学の専門家が書いた教科書よりも,むしろ平易で受け止めやすいものになっただろうと思っている.
 小学校高学年ぐらいからであれば,本書の内容はある程度はわかるだろうし面白いと思う.中学生や高校生さらに大学生まで,それぞれの年齢で本書の内容は読み方が異なりつつ,十分に理解できるだろう.もちろん天文学を教えるのに苦労している小学校や中学校や高等学校の現場の先生にも本書は是非お勧めしたい.さらに天文学には関心があるものの数式などは苦手な一般の方々にも本書はピッタリではないかと思う.
 本書の構成は以下のようになっている.まず第1章で,日常の生活で見られる天体現象について,主に太陽と星の動きを紹介した.第2章では,月の満ち欠けと日食・月食について説明した.これら第1章と第2章の多くは小学校高学年で習う内容である.続く第3章では,太陽と月と太陽系の天体について,最新の画像なども合わせ,その天文学的な実像に迫った.第2章から第3章にかけては,その多くは中学校で習うような内容である.そして第4章では,天界に輝く星々の性質と実体について,きわめて基礎的な立場から解説した.概ね高等学校の地学で習うことがらである.また第5章では,私たちの宇宙全体について,銀河系や銀河そして宇宙の膨張と宇宙における人間の立ち位置まで,話を進めた.この章も,概ね高等学校地学で習う領域だろう.最後に第6章では,天体望遠鏡について,その構造や使い方などを概説した.天体望遠鏡を使ったことがない人も,おそれずに使ってみて欲しい.
 できるだけ平易な内容とするため,複雑な概念や数式などは本文には出さないようにした.そして数式など少し難しい内容は「コラム」に,ちょっとしたネタやトリビアな話などは息抜きとして「コーヒーブレイク」にまとめた.またいろいろな現場ですぐに役立ちそうな「お役立ちアイテム」なども用意したので,いろいろ試してみていただきたい.
 本書をきっかけに,天界や私たちの住まう宇宙について関心をもっていただき,さらに自然の世界についてもっと知りたいと思ってもらえれば,著者一同としては,望外の幸せである.


著者を代表して,編者

 
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