|はじめに|

 銀河の研究において第一の目標は,銀河の生い立ちとその歩みの理由を知ることである.我々は時間を自由に行き来することはできないので,銀河の中に埋め込まれた記憶を探らないといけない.そのためにはまず,銀河の性質をよく知ることから始めないといけない.また光速の有限性から,遠方の銀河は,その銀河の過去の姿として見えていることになる.この姿を見るために,高性能の望遠鏡とカメラが必要になる.さらに,銀河の世界は多種多様である.全体像を知り,同時に個性も知るためには多くの銀河を調べ回らないといけない.星の数,いや,銀河の数ほどある銀河に対し,1つずつ丁寧に性質を調べていくことを積み上げるしかない.銀河に限らず,天体の性質を研究する際,写真の分析が主要な方法となっている.分析の基礎となる物理的理論,予想や検証のための計算もここに含まれる.というより,物理的理論や計算を基盤として,観測に臨んでいる.写真からどうやって銀河の諸性質を引き出すか.この考え方が,天文学の方法の核心部分である.
 本書では,星の集合体として見た銀河について解説している.銀河は,星,ガス,銀河中心核,ダーク・マターの集合体である.銀河を論じる上で,この4 者のどの観点からでも切りこめる.下図は,この4 者の互いの関係を記したものである.宇宙全体で見れば,ダーク・エネルギーというものもある.星に重点を置いたのは,この4 者のうち,星が我々に最もよく「見える」ものであり,また銀河には多数の星がつまっているため,銀河天文学の入門として,まずこの役者の理解が必要だからである.ガスと星は互いに相の違いであるともいえるので,本書ではある程度,ガスも扱う.銀河中心核は大切な天体で,超巨大ブラックホールと降着円盤の系から成るモンスターである.また,ダークという名がつくと,マターだろうがエネルギーだろうが,宇宙論の議論と密接につながる.しかしこれらは,語るべきことがたくさんあるため,詳細紹介は別の書に譲ろう.
 本書の具体的な読者として,筆者の仕事の経験から,教育学部の学部生・大学院生を意識した.知識の詰め合わせというより天文学の方法に重点を置き,宇宙の話を人に伝えようとする人にじっくりお伝えしたい,と考えた.数式はあまり出てこないが,数式が少ないと易しいから,ということで減らしたのではない.筆者なりに学生にじっくり話し込むとすれば,結果的に数式の数がこの程度になった,ということである.数式は自然界を記述するのに,大変優れた言語である.日常あまりつかわないと外国語のままであるが,こんな便利な言語をものにしない手はない.たまたま本書には数式が少ないが,宇宙をもっと理解していくために,数式という人類共通の言語を習得することを強くお勧めする.
                                                                                     筆者

 
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