|はじめに|

 宇宙への関心は大人から子供まで,男女の分け隔てなく多くの人々が抱いているように思われる.それは,自分達が如何なる世界の住人であるかを知りたいという純粋な欲求であろうと想像する.実際のところ,筆者である私自身も,この我々の宇宙が現在どのような姿にあるのか,そもそも宇宙自体がどのように生まれ現在我々が知る宇宙へと進化してきたのか,日々興味を掻き立てられている.本書は,そういった根源的な疑問を念頭に置きつつ,最新の宇宙像を伝えることを目標として執筆した.つまり,最新宇宙像から判る宇宙の一生を語ることが本書の目指すところである.この書物を手にとってくれた方々が少しでも,宇宙の魅力に改めて気づいてもらえたならば,望外の幸せである.

 ところで,宇宙の一生を理解することとは一体どういうことなのであろうか? 現世界の宇宙は非常に複雑な現象が入り乱れており,無目的にその正体をつかもうとしても,素直な理解へ到達することは大変困難である.その誕生を物語るべき道具も未完成の状態にある.本書では,筋道を少しでも明るくするため,宇宙の一生を「構造形成史」と「宇宙論」とに大別して考えることにする.「構造形成史」とは,銀河などの天体の誕生や進化,そして宇宙におけるそれらの空間分布の進化史であり,「宇宙論」とは,宇宙自体の誕生と進化の歴史ととらえられる.本書では,特に近年大きくその理解が進みつつある宇宙の「構造形成史」に力点をおき,最新宇宙像を語っていきたいと思う.「宇宙論」に関しては,第1章にその枠組みを紹介することに留めたい.

 本書では,現在の宇宙の姿を,できるだけ大きな空間構造を概観することから物語っていく.宇宙の大雑把な姿をまずは伝えたいということが筆者の目的ではあるが,事物の如何にかかわらず,ことの次第の大枠をまず把握することが大切であると筆者自身が信じているからである.そこで第2章では,宇宙の大規模構造について,ごく簡単な解説を行いたい.宇宙がそれ自身に大規模構造を有することは,宇宙空間での銀河の分布を調べることから分かる.この意味で,銀河とは宇宙の基本構成要素であると言えるであろう.そこで,第3章において,銀河の基本的性質を概観することにする.
 ところで,宇宙をある一定以上の大きな空間的物差しで見つめるならば,それはほとんど一様かつ等方的に観測されると考えられている.しかし一方,我々が我々の太陽系を観察するかぎり,例えば,太陽からの光は太陽自身からの直接光,そして,月やその他の太陽系の惑星や惑星間物質からの反射光のみであることが分かる.明らかに,我々の身の回りは,非等方な(光の濃淡がある)世界なのである.この宇宙の中で,一様等方的な状態から我々の存在する非一様な世界がどのように生じてきたのか,特に銀河という概念を介して解説していく.

 さて,一口に銀河を中心概念に据えて宇宙を概観するといっても,銀河が星の集団であることより,恒星に関する基本的知識を抜きには銀河を楔として宇宙を語ることはできない.そこで,第5章において,恒星の進化にも簡単に触れていく.実際,銀河の輝きは,その構成要素である様々な恒星光の重なり合い方の反映である.このことからも,銀河の直接的情報を担う光の出所である恒星の性質を把握しておくことは,宇宙の理解へ到達するために重要であることと想像してもらえると思う.また,第4章では,恒星自体の形成に重要な星間物質についても言及する.さらにごく最近では,我々の太陽系を含んだ惑星系形成の議論がホットに展開されている.このあたりの事情も第6章にまとめる.

 現代天文学は,人類の歴史上遭遇したことのない,大発展の時期を迎えている.地上では,8mクラスの大望遠鏡が続々と本格的に稼動し,華々しい成果を上げ続けている.さらに地球上空高くまで様々な望遠鏡を打ち上げ,地上からでは不可能な観測を実行する計画も大々的におし進められている.理論的にも,計算機技術の発展のおかげで,いままでその原因が憶測の域を出ていなかった複雑な現象の理解が深まってきている.こういった最新の宇宙探求についても,折に触れて紹介していく.宇宙の最新像の迫力を,本書を手にしてくださった皆様が少しでも体感してもらえるよう努めたつもりである.
                              筆者

 
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